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揺るがぬ大地

佇む足元が揺らぐ程の絶望・・・
こんな感情を・・・こんな空虚を・・・
味わいたくなど無かったと言うのに・・・
踏みしめた大地が撓んだ様な気がして家康は膝を折った。
目の前で天を仰ぎ斃れた男の名は石田三成・・・
かつて家康が恋焦がれた相手だった。
いや・・・かつてなどでは無い。家康は今も心から三成を欲していた。
それなのに・・・
己の選んだ途を後悔などしていない・・・はずなのに・・・
この手で・・・三成を・・・
叶えたい願いがあった・・・それを叶える為の努力もしてきた・・・
そして・・・その願いが叶う時が来たと言うのに・・・
その為にたった一つの輝きを失ってしまった。
痛みは刃となって心を切り裂き家康を苛んだ。
俯きひたすら痛みに耐える家康の後ろに忠臣の気配を感じ家康は小さく呟いた。

「暫く独りにしてくれ。」

家康の気持ちを慮った忠臣は頭を下げ踵を返す。
その音が遠ざかるのを聞きながら家康は小さく哂った。
ここは何て静かなのだろう・・・
先程まで響いていた剣戟の硬質な響きや怒声。馬の駆ける音・・・
それらが止み遠く鳶の鳴く声だけが響く。
ああ・・・何て・・・静かなのだろう。
静寂は家康の心の痛みを更に強くした。
それでもワシは進まなくては・・・
最愛の者の命を奪ってまで欲した願いがある。
それを成し遂げるのが今の己の出来る事の全てなのだから・・・

「貴様・・・夢は見るか?」

不意に三成の言葉が蘇った。
「夢?夜に見る夢か?」

「そうだ・・・その夢だ。」

豊臣の時代、三成と肌を合わせた後不意に問われたその言葉に面食らった。
「そりゃ見るに決まっている。」

「同じ夢を見るか?」

 間髪いれずの問いに更に混乱した。

「同じ夢・・・は多分そんなに見ないな。どうした?夢見が悪いのか?」

その問いに暫し考え込んだ三成は小さく首を縦に振った。

「毎日同じ夢ばかり見る。」

「嫌な夢なのか?」

夢占いならば刑部の方が得意なのだろうがそれを己に相談してくれた事が嬉しかった。

「嫌な夢・・・なのか?追われている様にも追っている様にも思う。とにかく私はその男が気になって仕方ないのだ。その男から逃げているのか捕えたいのか。」

夢の話でさえも三成の心を捕えている男に妬心を抱いた。
その時の己は一体何と答えたのだろうか?良く覚えていない。
それでも三成・・・それはきっとワシだったんだ。
家康は小さく哂った。記憶の一つ一つを己の都合の良い様に書き換え紡いでいかないと崩れ落ちてしまいそうだったから。
家康はそっと手を伸ばし乱れた三成の前髪を指で梳いてやる。

「っ・・・」

そんな筈はない・・・家康は震える手でもう一度三成に触れる。
頬をそっとなぞってみた。

・・・やはり温かい・・・

身体中の血が沸騰した。三成が生きている。腕が・・・足が震え思うままにならない。
確かめたい・・・そればかりが先立ちいえやすはつんのめる様に三成に覆い被さると胸に頭を当てる。
戦装束の上からでは分かりにくいが確かな鼓動が聞こえた。
歓喜という感情が吹きだし家康は思わず三成の身体を抱き寄せる。
かすかに頬に当たった吐息に思わず涙が溢れた。
ああ・・・三成。やっぱりお前はワシの事を良く分かっているんだな。
もう放さない・・・何があってもこの手を離したりしない。
これで太平の世がやって来る。もう武器を持つ必要も無い。
ワシの傍で生きろ・・・三成。

三成を抱き上げ踏みしめた大地はもう揺るがない。
もう・・・放さない・・・

「忠勝!」

鋭く呼ぶと望んだ通りやって来るその背に飛び乗った。
忠勝の物言いたげな顔を笑顔で封じると忠臣は小さく頷く。

「さあ忠勝。天下の太平を成し遂げるぞ。」

 これでワシは全てを手に入れた・・・そう・・・全てを手に入れたのだ。



     ―「闇色の陽光(ひかり)」に続く物語―


9/15戦煌用ペーパーより