護るべきもの

その真っ直ぐな瞳が愛おしかった・・・
その無垢な思考が羨ましかった・・・
そしてその視線の先の男が憎かった・・・
いつでも相対する感情が溢れて心がざわついた・・・
それでも・・・
その細い体躯で戦場を駆け抜ける姿に見惚れた
鮮血をその身に受け凄然と佇む孤高の姿は・・・
美しくそして哀しかった・・・
まるで心を持たぬ人形の様に・・・
冷たく敵を残滅するつるぎの残光は・・・
敵陣をただ一人で駆け抜ける・・・
追いかけても届かぬその煌めきを・・・
掴めぬ無力な己を嘆く事しか出来ない・・・
三成・・・それでは駄目なんだ・・・
相手も同じ人であるという事実は・・・
きっとお前には何の意味も持たぬのだろう・・・
何故ならお前は・・・
自分の命でさえ一分の重さすら感じていないのだろうから・・・
だが・・・ワシはそれを許さない・・・
その刹那的な生き方さえひっくるめて・・・
お前が愛しくて仕方ないのだから・・・


「石田様のご帰還だ・・・開門・・・開門!」

「おぉ・・・三成様・・・」

城内のどよめきに家康は読んでいた報告書から顔をあげる。
早馬で石田軍の勝利と三成の無事は聞き及んでいたが
やはりきちんと顔をみないと安心は出来ない。
城内のざわめきが更に大きくなる。
またしても三成の姿を見て驚愕しているのだろう。
全身に返り血を浴び真っ赤に染まった姿は見る者を怯えさせる。

「三成様・・・大丈夫でございますか?」

「大事無い・・・私の血ではない・・・私は休む。
誰もここには近寄らせるな・・・」

傍仕えが尋ねるのを億劫な様子で追いやり
三成は家康の部屋に上がって来た。

「三成・・・おかえり・・・怪我はないか?」

血だらけの手甲を外す横顔は色を無くし
対照的に受けた血の朱が更に色を増していた。

「きさまは私の言った事を聞いていなかったのか?」

そのまま畳に座り込む三成に家康は苦笑する。

「三成・・・またワシの部屋を血だらけにするつもりか?」

「うるさい・・・きさまは大人しく私に膝を貸せば良いのだ。」

既に体力の限界なのであろう。
傍に腰を降ろした家康の膝に頭を乗せると
一瞬にして寝息が聞こえてくる。

「三成・・・」

苦笑を禁じえないまま家康は腕を伸ばして
三成の甲冑を外し楽な姿にしてやる。
そっと膝を外し、傍仕えを呼んだ。
手甲や甲冑の手入れと湯の用意をさせる。
程なくして運ばれて来たタライにはった湯に手拭いを浸し
顔から順に優しく拭っていく。
戦後の三成は少しの気力も無く
ちょっとやそっとの事では目を覚まさない事を家康は分かっている。
単衣に着替えさせそっと抱き上げた。
もう一体何度このように力なく横たわる躰を夜具まで運んだ事だろう。

また・・・痩せたか?
三成の細い身体を検め家康は眉間に皺を寄せる。
自分が生きる事にすら無頓着な三成は
いくら言ってもきちんと食事を取ろうとしない。
戦場に出ると寝食を忘れ
ただただ敵を屠る事のみに目が行ってしまうのだ。
刑部や家康の心配すら届きはしない。
だからこそ戦から帰り真っ直ぐ自分の元にやって来る三成が愛おしかった。
普段甘える事をしない三成が膝を貸せと甘えてくるのは
家康の至福の一瞬でもある。
しかし家康は苦痛に顔を歪める。
身体はどこも痛くはない・・・
自分の軍は、今回はにらみ合いだけで終わり交戦しなかったからだ。

三成・・・お前は今日何百の敵を屠った・・・
その一つ一つに夢や希望・・・
そして命が宿っている事にお前は目を向けようとしない。
いや・・・興味すらないのかもしれない。
己の命ですら頓着しないのだから・・・
ひたすら・・・ただひたすらたった一人の男の為に生きる。
その盲目的なまでの崇拝に羨ましさすら感じる。

自分もそう生きられたらどんなに楽だった事か・・・
今ですら天下などその器を持っている者が
治めれば良いと思っているのだ。
だが・・・三成が崇拝する唯一の男の器を
家康は疑わざるを得ない。
秀吉公は地平の先ばかりを見つめ
足元の惨状を見ようとすらしない。
日の本の太平を謳いながら
ただこれ以上に民を闘いに巻き込もうと言うのだ。
一体何が正しくそして歪んでいるのか
家康には分からなくなってきている。

このままでは恐らく平らかな世の中は訪れない。
民は疲弊し土地は痩せ
その日の食べ物にさえ苦しむ日々を送る事になるだろう。
それを太平というのか?
もしそれが秀吉公の望む平らかな日の本と言うのならば
それに加担することは出来ない。
しかし・・・今それをするという事は自軍を・・・
そして何より一番大切な三成を失う事になるのだ。

「三成・・・一体ワシはどうすれば良い・・・」

呟いた怒りと哀しみに返るいらえはもちろん無い。
きつく拳を握りどうにもならぬ現実を噛み締める。
自分はこんなに無力であったのだろうか?
幾度となく悔しさや悲しみを乗り越えて来た。
それどころか家康の人生はそう言った負の感情のほうが多かったはずだ。
しかしそれまではここまで無力感を感じた事は無かった。
自軍を・・・民を守る為ならば与する事も屈辱ではなかった。

それなのに・・・どうして・・・
握った拳が怒りに震える。
ままならぬ現実に・・・そして己の非力さに・・・

「何を泣いている・・・家康・・・」

不意に伸びて来た手のひらが家康の頬を拭う。
目元を優しく拭われて
家康は初めて自分が涙を流している事に気付いた。

「どこか怪我でもしたのか?痛むのか?」

目覚めたばかりで少し茫洋としたままの口調で問われ
更に涙が止まらなくなる。
誰もが三成を氷の様だと評する。
戦場で何の躊躇も無く敵兵を討つその姿は確かに氷の刃の様だ。
しかし自分の事は無頓着なのに
こんな風に家康を気遣ってみたりするのだ。

「いや・・・怪我などしていない・・・
ただ・・・心が痛いだけだ。」

「心が・・・?痛い・・・?」

見上げる三成の真っ直ぐな瞳が哀しかった。
きっとこの痛みを三成は理解出来ないのだろうから・・・

「何でもないんだ・・・お前が無事で良かった。」

小さく呟く家康を不思議そうに見上げる三成の右手は
そっと涙を拭い続けていた。

「家康・・・」

艶を増した囁きに引きこまれる様に
家康はそっと三成に覆いかぶさる。
口唇を食む様に優しく啄ばむと
硬質な印象を持つのに驚くほど柔らかな感触が家康を包み込む。
 するりと開いた色付いた口唇に誘われ更に深く口付ける。

「んっ・・・」

小さく上がる吐息に家康の鼓動も高鳴ってしまう。

「いえ・・・やす・・・」

吐息と共に名を呼ばれその甘さに腰が痺れた。

「三成・・・疲れているのだろう?
ここにいてやるからゆっくり休むと良い。」

戦から帰ったばかりの三成を案じてそっと口唇を離す。
しかしするりと伸びて来た腕に後頭部を抑えられ
もう一度柔らかな口唇を貪った。

「私に遠慮などいらぬ・・・
こんなに硬くしているのに何を躊躇している。」

そっと自身を握られ思わず苦笑するしかない。

「三成・・・あまり煽るな。
ワシだって我慢の限界というものがあるんだぞ。」

窘める家康を憮然とした表情で見上げると
三成はもう一度そっと口唇を寄せる。

「何故きさまが我慢をする必要があるのだ。
私が来いと言っているのだ。」

ぐいっと引き寄せられ家康は唇の端を吊りあげた。

「なんだ三成・・・血の匂いに昂ぶっているのか?
それならばワシも遠慮はしない。」

もう余分な会話は無用と家康は本格的に三成に覆いかぶさる。

「んっ・・・」

小さく紡がれる吐息に酩酊した。
甘い吐息に昂ぶらされ先ほど着せた単衣を今度はそっと剥ぎ取る。
露わになった胸の尖りをそっと愛撫する。

「あっ・・・い・・えやす・・・」

もう何度も躰を重ねているのに
三成の身体はいつまでたっても洗練潔白な印象を受ける。
愛撫に濡れて朱さを増した胸の尖りは
とても淫らな艶を放っているのに
決して堕落した色を見せない。
この腕の中に抱きしめているのにいつまでたっても捕まえられない。
だが・・・逃しはしない。
もう片方の尖りを片手で愛撫しながら
家康はじりじりと頭を下方に滑らせた。

「あ・・・は・・やく・・・」

三成の欲望は勃ち上がり刺激を求めてふるりと震えた。
家康はわざと待ちわびるそこを避けて内腿にそっと口付ける。

「よ・・せ・・・いい加減にしろ・・・」

胸への刺激をそのままに内腿を強く吸われ
三成は思わず不満の声を上げる。

「んっ・・・いえ・・や・・す・・・」

幾度となく呼ばれる名に家康は満たされる。
三成が己の名を呼ぶ。
たったそれだけの事で満たされる自分が可笑しかった。
熱くなり体温の上がった三成からは
あれだけ拭ったというのに血の匂いがした。
戦の後三成がこのように求めてくるのは珍しい事ではない。
大量の血を浴び鮮血に塗れ
戦の興奮を家康と交わる事で沈めているのだ。
それが分かっているからこそ家康はそっと三成を抱き締める。

「家康っ・・・」

遂に耐えられなくなって怒った様に自分を呼ぶ三成に
家康はにっこりと微笑みかける。

「どうした三成?」

分かっているくせに問う家康の頭に手を掛けると
三成は自身の元に引きよせる。

「もう・・・焦らすな・・・」

少し潤んだ瞳で訴えられては流石の家康も抗う事は出来ない。
求めのままに勃ち上がった欲望に舌を絡める。

「ああっ・・・」

感極まった様に上がる歓喜の悲鳴を家康は心地よく聞いた。

「ああっ・・・い・・えやす・・・家康・・・」

すっぽりと咥えこんだ欲望をゆっくりと舐め上げる。
じわりと苦みが口に滲む。
三成の欲望から溢れ出たそれを家康は喜んで受け止めた。
丹念に裏筋に沿って舐め先端を舌先でつつく。
じゅぷっという音と共にすすりあげた。

「ああっ・・・もう・・・よ・・せ・・・」

そろそろ限界なのだろう。
内股が軽く震え始める。

「気持ち良いか?三成・・・」

銜えたままそっと問うとその刺激にすら感じてふるりと震えた。

「いい・・・から・・・放せっ・・・」

家康の口に放つ事を三成はいつも躊躇する。
家康はそんな三成を見るのが大好きなので
いつも放そうとしない。

「あっ・・・だ・・めだ・・・もうっ・・あああああっ・・・」

最後に先端を吸い上げてやると
三成は身体を震わせながら家康の口中に放つ。
ごくりと咽喉を鳴らして呑み込んだ家康は
羞恥に震える三成の顔を満足げに眺める。
ぐったりと脱力した三成の頬は紅潮し、
震える内腿は家康に満ち足りた喜びを与えた。

家康は懐紙を手に取るとそっと後始末を始める。
不思議そうに見上げる三成に乱れた単衣を掛けてやる。

「何故来ない・・・」

荒い息を整えながら問う三成に家康は苦笑しながら答える。
「今日は休めと言っているだろう。
お前また痩せたぞ。
あれほど自分の身体を大事にしてくれと頼んでいるではないか。」

家康の言葉にむっとした様に顔を上げた三成は
挑む様な視線を寄越す。

「私は一方的な行為が好きではないと何度いったらわかる。
これは私の身体だ。
己の事くらいきちんと把握している。
きさまはただ私を求めれば良いのだ。」

真っ直ぐな瞳。
この揺るぎの無い瞳に誰が抗えると言うのだろうか?
己を射抜く視線に酩酊した。

「三成・・・」

心の底から求めている。
身体だけでなく心を・・・
その純粋さを・・・
三成の全てが欲しかった。

「んっ・・・」

吸い寄せられるように重ねた口唇を思う存分貪る。
もう三成の体調を考慮することなど出来ない。
口唇を重ねたまま下肢へと手を伸ばす。
一度放った後だと言うのに三成の欲望は硬さを取り戻していた。
軽く扱きあげるとじわりと先走りが滲む。
それを手のひらに取ると家康は更に奥に手を伸ばした。
己を受け入れる最奥をゆっくりと解していく。

「あっ・・・くっ・・ぅっ・・・」

少し潤いが足りない所為か三成は苦痛の声を漏らす。
家康はもう片方の手のひらを三成の口の前に持っていった。

「三成・・お前を傷付けない様に濡らしてくれ。」

家康の意図を察知した三成は
節のしっかりした家康の指を口に含むと
音を立てて舐め上げる。
恍惚の表情で指を舐める三成に家康も我慢の限界を覚えた。

「三成・・・もう良いぞ。」

そっと指を引き抜き最奥をその指で解し始める。

「ああっ・・・んっ・・・」

今度は明らかに快楽を感じている様だ。
家康はそのままもう一本指を増やすと
三成の快楽を更に高める為
一番弱い場所を重点的に攻め始める。

「ああっ・・・そ・・こはだ・・めだ・・・」

刺激が強すぎて今すぐにでも達してしまいそうになるのを
三成は必死で堪える。
びくりと逃げを打つ躰を押さえつけ
逃げられなくしてから更に奥を穿った。

「や・・めろっ・・・」

ふるりと震える欲望の先端からは
とめどなく透明な液が溢れ
三成の快感の深さを物語っていた。
 扇情的な視覚に煽られ家康は三成の両足を抱え上げる。

「は・・やく・・来い・・・」

両手を伸ばした三成が家康の首を抱く。
肩に両足を掛けさせ腰を固定した家康は
もう一度三成の瞳を覗き込む。
潤みを帯びたその瞳はそれでも真っ直ぐに家康を貫いていた。

いつか・・・
自分が死ぬ時が来たらこの瞳に射抜いて殺されたい。
ふと家康はそんな事を考える。

「何をしている・・・早く・・・」

一刻すら待てない三成はその瞳で家康を誘う。

「三成・・・」

「ああっ・・・」

名を呼ぶのと同時にぐっと腰を進めた家康は
その絡みつく内部に思わず息を止めた。

「んんっ・・・あっ・・・」

蠢く様に家康を包み込むその熱さに
身体中の血が沸騰する。

「三成・・・三成・・・」

名を呼ぶたびに愛しさが込み上げる。
こんなに愛する相手はお前しかいない。

「う・・・ごけ・・・家康・・・」

抱いているのは自分なのに
何故か家康は三成に抱きしめられていると感じる。

「ああっ・・・っ・・・」

望み通りに突き上げると歓喜の悲鳴が上がる。
家康の耳に心地よく響くその声は艶を増し
更に己を昂ぶらせるのだ。

「こんな風に求められると・・・興奮するな。」

ゆっくりと突き上げながら家康は
三成の髪をそっとかきあげる。

「三成・・・愛している・・・」

愛おしさが込み上げ思わず告げたその言葉に三成は
家康を見上げ当たり前の様に答える。

「そんなこと・・・分かっている・・・
わ・・たしだって・・・
きさまを愛しいと思って・・いるから
こんな事を・・許して・・い・・るんだ・・・」

強烈な告白が家康の脳髄を直撃する。
そんな事を言われて興奮しない男がいる筈がない。

「ああっ・・・おお・・きくするな・・・」

「仕方がないだろう。
まさかお前からそんな言葉が聞けるとは思わなかった・・・
今日は何て良い日なんだ。」

込み上げる喜びと引きこまれる様な蠢動に翻弄され
家康は奥歯を噛み締め放出を堪える。
もうお互い長く持たぬ事を察知し家康は腰の動きを強める。

「ああっ・・・い・・えやす・・・いえや・・す・・」

名を呼ばれ己の腕に縋りつく強さに愛おしさを感じた。
浮世の憂さを忘れ・・・
今だけはこの熱い躰を共有したかった。

「三・・・成・・・」

熱い吐息と共に名を呼ぶとぎゅっと締め付けがきつくなった。
きっと三成も同じ気持ちを持ってくれているのだと
家康は胸を熱くする。

「も・・う・・・無理・・だ・・・」

限界までに熱くなった躰を持て余す様に
三成が腰を浮かせる。

「良いぞ・・・ワシも限界だ・・・三成・・・共に・・・」

「ああああっ・・・」

三成の欲望から熱い白濁が溢れだすのと同時に
家康もまた三成のなかに放っていた。

はあっ・・・はあっ・・・
と荒い息を整えながら家康は
そっと三成の中から己を引き抜く。

「あっ・・・」

それにさえびくりと震えた三成は気だるい腕を上げ
家康の首にするりと巻きつける。
そんな甘えた仕草が嬉しくて額に軽く口付けると
家康は三成の細い身体に己の躰を横たえた。
暫く三成の胸に頭を乗せ
だんだんと落ち着いていく鼓動を感じる。

「重くないか?三成・・・」

小さく問うと首を横に振られる。

「重くは無い・・・
きさまは暖かくて気持ち良い。」

三成らしい率直な言葉に思わず苦笑した。
それから家康は体勢を変え横に寝転がると
三成の頭を抱く。
腕枕をされても尚文句も言わない三成に
今日は本当に甘えたいのだと気付かされる。

「三成・・・戦場で何かあったか?」

優しく問うともう一度首を横に振られた。

「何故その様な事を聞く。」

腕にぎゅっと力を込めると今度は家康が首を振る。

「何にも無ければ良いんだ。
お前が無事で嬉しいだけだ。」

三成はあまり己の事を話さない。
本人にとって必要でないからかもしれないが
家康はそれを少し寂しく感じる。

「そう言えば刑部が・・・」

思い出したかのように三成が言う。

「ん?刑部がどうかしたのか?」

「きさまを占ったと言っていた。」

三成の親友は偶に占いや呪いをする。
だがそれはあくまで三成の為であり
家康の事まで占ったとは珍しい事だと不思議な気持ちで聞く。

「刑部がワシを占うとは珍しいな。
何と言っていた?」

三成がわざわざ告げると言う事は
きっと三成も珍しいと思っているからなのだろう。

「きさまは天に愛されるだろうと・・・
陰と陽の渦巻く世界できさまは陽を支配し
誰もがその光を羨むだろうと・・・」

刑部らしい象徴的な占いに家康は声を立てて笑った。

「そうか・・・それは嬉しい事だな。
光は民の心を明るくする。
ワシはそんな人間に成れるのだろうか。」

胸に寄せられた三成の吐息が家康をくすぐる。

「刑部は嘘を言わない。
きさまはきさまの望むとおりに生きれば良いのだ。」

その言葉が胸を打った。
まるで先程まで自分が考えていた事を
読まれていたのかと柄にもなく動揺した。

「そ・・・そうか・・・ありがとう三成。
お前は良い友を持ったな。」

早口で言う家康の動揺に気付いた様子も無い三成は
やはり疲れているのだろう。
瞼が重たくなってきている様だ。

「お前は占って貰わなかったのか?」

そっと髪を梳きながら問うと
眠たげな三成の返事が返ってくる。

「私は・・・お前とは真逆だと・・・
闇に・・・愛されその・・・
寵児となる・・だろう・・と・・・」

最後の方はほとんど聞き取れなかった。
既に三成は柔らかな寝息を立てており
家康はその身体を抱き締め苦笑する。

「眠ったのか?ゆっくり休むと良い。
ワシの腕の中で・・・」

それにしてもさっきの三成の言葉が気になる。
闇に愛されその寵児となるだろう・・・
いや・・・ワシがお前を照らす光となろう。
けして闇に愛させたりしない。

「んっ・・ひ・・でよしさ・・ま・・・」

寝言で紡がれる名前に胸が痛んだ。
三成がこれほどまでに敬愛し
ただただその人の為だけに生きようとしている人物を
己はどうしたいのだろう。

「三成・・・ワシを恨むか?」

届かないその声は小さく震えていた。
譲れない二つを天秤にかけ
その一方を切り捨てなければいけない己の境遇を
家康は初めて呪った。
陽に愛されてなどいない。
自分こそが闇に愛されているのだと・・・
三成・・・ワシは一体どうすれば良い?
幾度となく問うたその言葉に返ってくる応えなど
無い事は分かっている。
それでも・・・ワシは進まなければならぬのだ。
眠ったままの三成の髪を梳きながら
あと幾度この身体を抱き締められるか想いを馳せる。

もう・・・長くは待てない。
減っていく民の命を・・・
痩せて行く土地を・・・
この手で守らなければならないのだから・・・

三成・・・こんなにも愛しているのに・・・
お前は只真っ直ぐにその忠誠を貫くのだろう。
その懐刀としての生き方に疑問すら持たずに・・・
そしていずれは己にもその刃が向くのだろう。
その時・・・ワシは三成を屠る事が出来るのだろうか?
ぞくりと背に冷たい汗が流れる。
いっそ・・・このまま太平も世の中も民も・・・
全て捨てて三成と共に逃げ出してしまいたい。
そんな事を考えた己に苦笑した。
今まで民がどうでも良いなどと思った事は
一度も無かったと言うのに・・・
大体・・・そんな事出来る筈がない。
三成が絡むとどうしても平静を保てなくなる自分に
家康は胸に錐でも打ち込まれた気分になる。

三成・・・ワシを恨んでくれて構わない。
恨んでも・・・憎んでも良いから・・・
ワシを忘れないでいてくれ。
許してくれとは言わない。
言っても決してお前はワシを許さないだろうから。

そして・・・いつか一人の人間として
しっかりとワシの姿を見て欲しい。
その為にワシは闘う。
これから先何百・・・何千の命を奪っても
ワシはその一つ一つの重さを決して忘れない。

眠る柔らかな口唇に己のそれを重ねた。
柔らかく家康を包み込むその優しさに涙が零れた。
ぽとりと三成の頬に落ちたその透明な雫は
白磁の肌を濡らし首筋へと流れ落ちて行った。

三成・・・愛している・・・お前だけを・・・
何があってもお前がワシを恨んでも・・・
この想いだけは誰にも邪魔をさせない。

愛している・・・
 


そして・・・天下を二分する闘いが始まる・・・











KIZUNA★FORTUNEより・・・
占いがテーマだった割にはさらりと流されました(笑)
最初の家三作品です。