視線を感じる。学園から寮への帰り道。散歩を楽しむようにゆっくりと2人で歩く。
視線を感じる。さっきから何か考えているのだろう、彼の熱い視線だ。

これっぽっちも不快ではない。むしろ心がざわめいてしまう。
思わず苦笑をもらす。

「そんな風に見つめないで下さい。僕の忍耐力を試しているんですか?」

彼に向き直り瞳を見つめる。
すると彼は悪い事をして見つかった子供のように目を泳がせ

「え?あっすみません。」

と謝罪をする。
謝る事なんて1つも無いのに。
その頬が見る見る朱くなっていくのを楽しみつつ、でも今の心配事を口にする。

「伊藤君。夕立が来そうですよ。少し急ぎましょう。」

左手を差し出すと先程の照れくささを少し頬に残したまま
それでも素直に右手を重ねてくる。
そんな彼に愛しさを覚えずにはいられない。

ところが数歩も行かないうちに空が泣き出してしまった。
夏の夕立は激しい。

「わあ、降って来ましたよ。何処かで雨宿りしましょう。」

手近な木の下へと彼が走る。途端に腹の底に響くような雷が鳴った。

「うわっ。」

耳を塞いで怯えた顔の彼に少しイタズラ心が沸いた。

「伊藤君は雷が苦手ですか?」

問いかけると少し恥ずかしそうに

「別に苦手っていう程ではないですけどあまり好きな人はいないんじゃないですか?」

と返ってくる。そこで更に重ねて

「そうですか?僕は結構好きなんですけどね。キレイじゃありませんか。」

と言うと意外にも彼はクスっと笑った。

「建物の中から見る分にはキレイかも知れませんけれど・・・今はちょっと・・・」

そういう事なら少し楽しませてもらいましょう。
濡れるのを覚悟で道の真ん中へ戻る。

「七条さん濡れますよ。」

彼の心配そうな声を聞いて幸せを感じる。
我ながら曲がった性格ですね。

「伊藤君こそ。そんな大きな木の下では雷が落ちるかも知れませんよ。
早くこちらに来て下さい。」

すると彼は見る見る青褪め広げた腕の中に飛び込んでくる。
こういうところが愛おしくてたまらない。

彼にジャケットをかけて雨をよけてやる。

「そんな。七条さんが風邪を引きます。」

愛おしい。たまりませんね。

「大丈夫ですよ。僕はそんなにヤワじゃあありません。
それよりも伊藤君が雷にあたってしまうほうが嫌ですから。
とりあえず寮まで歩きましょう。」

歩みを促した自分の顔をまた彼は見つめている。
君は気付いているのでしょうか?今、自分がどんな瞳をしているのかを。

「今日は伊藤君に見つめられっぱなしです。僕の理性も限界ですよ。」

彼の頬が朱に染まる。本当に我慢が効かなくなって頬にキスを落とした。
そのまま肩を抱き寮までの道をたどる。



寮の入り口で篠宮さんを見つける。相変わらずマメな人だと思う。

自分はそこまで他人に甲斐甲斐しく出来ない。出来るのは唯一隣にいる彼だけだ。
郁にも此処までは出来ない。

「どうして雨宿りくらいしてこないんだ。」

バスタオルと大きな袋を渡される。

雨宿りの経過を彼が説明している。その横顔を微笑ましく見つめていると

「七条。伊藤をからかうのもいい加減にしろ。」

と真面目な寮長にお叱りを戴いた。

「おや。そうでしたね。伊藤君が心配でうっかり失念していましたよ。」

得意のポーカーフェイスで答える。当然避雷針のことなんて知っていましたよ。
ただ彼が自分を必要としてくれる。
そんなチャンスを逃したくなかっただけです。ふふっ





大浴場からあがって自室に帰ろうとする彼を呼び止める。

「伊藤君僕の部屋に寄っていっていただけませんか?」

彼の大きな瞳がいっそう大きく見開かれ戸惑いを宿す。

「あの、でもバスタオル1枚ですし、着替えたら伺いますから。」

大浴場での自分の理性との戦いを君に聞かせたくなりますね。

「出来たらそのままがいいんです。さっきも言いましたが僕は我慢の限界なんですよ。」

瞬間頬に朱が走る。
しばらく考えた後彼は小さな声で

「わかりました。」

と答える。


愛おしいと思う。
そして僕は愛されているんだと実感する。





 FIN

夕立ちの臣さんサイドです。
本当は啓太サイドと同じ時に出来ていたのですがなんとなく出しそびれてました。
ちょっと時期はずれになってしまいましたね。