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小さな歓喜の声をあげて・・・
君は窓に駆け寄って行く。
先に起きてカーテンを開けた僕は・・・
とっくに気付いていたけれど
そこは君に見つける楽しみを譲る事にする。
窓枠に手をかけ外の景色に吸い寄せられるように
君は額を目の前にあった硝子にぶつけた。
一瞬の痛みに目を瞑り・・・
その後には笑いが込み上げてきたようで・・・
君は照れくさそうに僕を振り返り
額と頬を朱く染めて笑った。
そんな些細な日常の出来事を・・・
心から楽しめる様になったのは
君が僕の心の中の氷を
一つ一つ溶かしてくれたから・・・
凍てついた心は・・・
二度と溶けることは無いと勝手に思い込んでいた僕は
今思えば寂しかったのだろう。
当時の僕は寂しさなど感じた事もないと思っていた。
寂しさにさえ気付けなかった僕は
ある意味幸せだったのかも知れないけれど・・・
そんな風に考えられるようになったのも
やはり今がこんなに幸せだからなのだろう。
ありがとう・・・と心の中で呟く。
今の君の笑顔が・・・
僕をこんなにも幸せにしてくれる。


**********


 新学期も始まったばかりなのにすぐに訪れた三連休。
 昨夜の学園内は妙に浮かれた気分でざわざわとしていた。
 学食の中では明日何処に行くだの、
何をして過ごすだのの話題がもちきりだった。
 僕と伊藤くんはもちろん二人でご飯を食べた後の事に気を奪われていて、
伊藤くんの隣りで同級生面を決め込む理事長にもどこか上の空で返事をしたりした。

 そして当然のように僕の部屋で朝を迎えた愛しい人は、
起きた途端窓の外の景色に目を奪われたようだ。
 窓辺に走り寄った恋人はそのままの勢いでゴチンと音がするほど硝子に額をぶつけた。
 どうやら昨夜遅くから降り始めた雪が一面を銀世界に変えていたのだ。
 ここではこれほど積もったのを見たことが無い。
 そして朝日を反射して輝く雪は確かに美しかった。

 僕と郁の育った場所は豪雪地帯ではなかったがそこそこに雪は積もる場所だった。
 冬の景色はいつでもグレーで・・・
雪国独特の重い雲が垂れ込めていた。
 冬に晴天という日がそんなに無いのだ。
 雪や雨が降っていなくてもどんよりとした雲が日光を遮り視覚からも肌寒さを増幅させる。
 そして雷がなり雪が降り出すのだ。
 自分の記憶とは明らかに異なる雪を目の前に何故だか僕も心が弾んでしまう。
 これはおそらく伊藤くんといるからなのだろう。
 彼の真っ直ぐで純粋な心は、僕の曲がった性格まで真っ直ぐにしようとしている様だ。
 自分の失敗を恥じるように振り返って照れたように笑う恋人は眩暈がするほど美しかった。
 暖房は僕が先に起きてつけておいたから寒くは無いのだろうが
扇情的な姿であまり窓辺によって欲しくはない。

「伊藤くん・・・風邪を引いてしまいますよ。
それにそんな格好を僕以外の誰かに見せるのはやめて下さいね。」

 僕の言葉にようやく自分が全裸でいることに気付いたのだろう。
 慌てて僕の許に戻って来る彼が愛おしい。
 そのままぶつけた額に宥めるようにキスを落とす。

「さぁ・・・着替えて朝食を食べに行きましょうか?」

 僕の提案に答えるように彼のお腹がきゅうっと鳴った。

「うわっ・・・恥ずかしっ・・・」

 更に頬を染める恋人が可愛くてこのままベッドに引き戻そうかとも思ったが、本当に空腹なのだろう。
 二人で着替えて休日の朝にしては人が多い食堂でゆっくりと朝御飯を食べた。

 他の人達は皆出掛けるための早起きなのだろう。
 慌てて朝食を片付けるとあっという間に食堂から去って行く。
 特に予定も決めていなかった僕達は部屋に戻ることにする。
 すると伊藤くんは少し考え込みぱぁっと花が咲いたかのように微笑んだ。

「七条さん。俺一度自分の部屋に戻っていいですか?
すぐに七条さんの所に行きますから先に部屋に行ってて下さい。」

 僕はもう恋人の気持ちに気付いていたからにっこりと笑って承諾の意を示す。

 おそらく彼は雪遊びがしたいのだろう。
 自分の部屋に戻って暖かい服を取ってくるつもりなのだろう。
 一人部屋に戻ると僕のほうも準備を始める。
 まずは昨夜の名残を残すベッドのシーツを新しい物に代え、
その後に風呂場に行きお湯を張るタイマーをセットする。
 こういう時は各部屋に風呂が付いていることをありがたいと思う。

 そして長めのマフラーと手袋を用意する。
 ひょっとして恋人は防水の手袋を持っていないかもしれない。
 少しサイズは大きいかも知れないがとりあえず自分のをもう一組準備した。
 すると丁度良いタイミングでドアをノックされる。

「お待たせしました。七条さん。」

 そう言った彼の格好はやはりコートを着込んだ雪遊びスタイルだった。
 僕が同じ様にコートを着込んでいるのを見て彼は破顔する。

「流石七条さん!俺の考えてる事バレバレでしたか?」

 そう言って笑う恋人にこちらも無条件で微笑んでしまう。

「もちろん分りますとも。
君ならばきっとこうするのだろうと思いましたから。」

「あははっ・・・俺・・・そんなに分かりやすかったですか?
単純すぎるかな。」

 そんな風に笑いながらも彼の視線は早く行こうと促している。
 そしてその手に握られた手袋はやはり防水用のものでは無い様だった。

「伊藤くん。
ちょっと大きいかも知れませんがこちらの方が手が冷えないと思いますのでこちらを使いませんか?」

 差し出した手袋をきょとんと眺めてにっこりと笑う。

「はい・・・ありがとうございます。
これ・・借りちゃっていいですか?」

 こういう素直なところが恋人の美点だ。
 恋人の持ってきた手袋を自分の部屋に置き二人で肩を並べて玄関へと向かう。

 玄関の外でざっ・・・ざっ・・・という音がしていた。
 僕は少し嫌な予感に眉を顰める。
 すると案の定面倒見の良い寮長が出口付近の雪かきをしていた。

「あ・・・篠宮さんおはようございます。」

 恋人はにこやかに挨拶をした後一瞬驚いたように目を見開く。

「ああ・・おはよう、伊藤・・・七条も一緒か。」

「おはようございます。雪かきですか?」

 この寒いのにうっすらと額に汗を掻いている。

「篠宮さん・・・一人で雪かきしてたんですか?俺手伝いますよ。」

 ほら・・・やっぱり・・・
 僕の嫌な予感は的中した。
 こうやって篠宮さんのお手伝いで何度予定がつぶれた事だろうか・・・
 僕の恋人は困っている人を放っておけない。
 今日もきっと雪遊びが雪かきに変わる事だろうという僕の予想は珍しく外れた。

「いや・・・ありがとう。でももう終わりなんだ。
伊藤と七条にはいつも手伝ってもらってすまないな。
気持ちだけ受け取っておくよ。」

 確かにみると玄関の入り口からは見事に一本の道が出来ていた。

「うわっ・・・これ篠宮さん一人でやったんですか?
すみません。もっと早く気付いてればお手伝いしたんですけど・・・」

 申し訳なさそうに下げた頭にぽんぽんと手を置く。

「伊藤はいつでも可愛いな。」

 堅物とは思えないセリフに思わず僕のほうが笑ってしまった。

「あ・・・いや・・七条が可愛くないとかそういう意味ではないぞ。
何だか伊藤を見ていると弟を思い出してしまってな。」

 照れたように笑う面倒見の良い上級生を微笑ましく思った。
 他の人間ならば恋人に触るのも許せないのに・・・
 何故かこの人ならばいいかと思わせるところがある。

「お前達は予定があって出てきたのだろう?引き止めて悪かったな。」

 持っていたシャベルを肩に担ぎ片付けをしている姿を見ながら僕達は目的地に行く事にする。

「篠宮さん一人でやってたんですね。悪い事しちゃいましたね・・・」

「また次に何かお手伝いをすれば良いと思いますよ。
今日はタイミングが悪かっただけです。」

 僕の言葉に恋人は嬉しそうに微笑んだ。

「七条さんって魔法使いみたいですね。」

「僕がですか?残念ながら空を飛んだりは出来ませんよ。」

 そう言うとくすくすと笑う恋人が愛おしい。

「七条さんなら飛べそうです・・・ってそうじゃなくて、
七条さんはいつも俺が欲しい時に欲しい言葉をくれるから・・・」

 小さく呟く言葉は僕を図に乗らせる。

「言葉だけじゃなく伊藤くんが欲しい時にはちゃんと身体も差し出しますよ。」

「もうっ・・・そういう事じゃありません!」

 顔を真っ赤に染めて怒る彼はそれでも嬉しそうに微笑んだ。

「どうして怒ってるのに笑っているのですか?」

「七条さんの事が大好きだからです。」

 ほら・・・こうやって君は無意識に煽るから・・・
 このまま寮の部屋に引き戻してベッドに拘束したくなる。

「俺!今日七条さんの雪だるま作ります。」

「僕の・・・ですか?」

 すると恋人はくすりと笑って言った。

「だから七条さんも俺の雪だるま作って下さいよ。」

 そういう趣向ですか・・・
しかし僕はあまりそういったことは得意な方ではないのですが・・・

「良いですけれど・・・似ていなくても怒らないで頂けますか?」

「もちろんです。その代わり俺のも笑わないで下さいね。
じゃあ・・・よ〜いどん!」

 右手を上げてピストルを撃つ真似をして
中庭の雪の中に突進していく後姿を僕は幸せな気持ちで見送った。

 しばらく雪をこねている姿を見守っていたのだが、新雪で雪が固まらないのだろう。
 ムキになってぎゅうぎゅうと固めてはぼろっと崩れてしまっていた。
 僕はその可愛い口唇が拗ねたように尖るのを楽しく見つめた後彼を呼んだ。

「伊藤くん。そんな風では雪玉は出来ませんよ。」

 そう言うと彼はきょとんと僕を見返す。

「え?じゃあどうすれば良いんですか?」

 きっと彼の住んでいた場所では大して雪が積もったりしなかったのだろう。
新雪は中々固まらない。

「まずは軽く小さな雪玉を作ってください。
あまり強く握りと壊れちゃいますからね。」

 僕の言葉に素直に雪玉を作るとそれから?とばかりに見上げられる。
 彼の空色の瞳がキラキラと輝いて思わず目がつぶれるかと思ってしまう。
 真っ直ぐな瞳は未だ歪んだ僕には眩しすぎるのだ。

「それからその雪玉をそっと雪の上に置いて転がしてください。」

 すると周りの雪を巻き込んで小さな雪玉はみるみる大きくなって行く。

「うわっ・・・ホントだ!簡単に出来ますね。」

 子供のように嬉しそうに雪玉を作る彼に口付けたいと思った丁度その時
中庭に大きな声が響いた。

「おっ・・・早速やってんな!俺も混ぜてくれ。」

「王様?おはようございます。」

 雪玉から顔を上げた恋人は
雪の中なのに結構薄着の上級生を見上げてにこやかに笑った。
 全く・・・良いタイミングで・・・
心の中で舌打ちをしながらも僕もにこやかに挨拶をする。
 後でちょっとトノサマにお願い事をする事にしましょう。
僕の甘いキスの時間を奪ってくれたお礼が必要なようですから。

「なんだ・・・雪合戦じゃねえのか。何やってんだ?」

「雪だるまを作ってるんです。王様も作りませんか?」

 恋人の手元を覗き込んだ少し空気の読めない上級生はからからと笑った。

「いいねえ・・・雪だるまなんて相当な昔に作ったことがあるだけだな。
よし・・・いっちょやるか。」

「あ・・・じゃあ俺七条さん作ってるんで、王様は誰が良いですか?
あ・・・中嶋さんは?・・・・あっ・・・」

 最後のあっ・・・で恐る恐る僕を振り返った恋人の顔に思わず笑いが込み上げる。
僕の前で名前を出した事に失敗を見つかった子供のような反応をする。

「ん?そうだなあ・・・んじゃヒデでも作るか。」

「わっ・・・楽しみにしてます。」

 それからしばらくは三人ともそれぞれの作業に没頭する。
 ・・・とはいっても僕はちらちらと伊藤くんを観察する事をやめなかったけれど・・・

「俺・・・出来ました。」

 一番最初にそういったのは伊藤くんだった。
 何処から拾ってきたのか頭には葉っぱが付けられ
目の下には小さな石で泣きぼくろが付けられていた。

「俺も出来たぜ!」

 そう威張る上級生の雪だるまには中々器用に木で作った眼鏡がトッピングされていた。
 僕もなんとか形にして終わりを告げる。

「うわ〜。なんか並べると可愛いですね。
いっその事色んな人のも作りましょうか。」

 大の男が三人揃って雪だるまを作る姿はいかがなものかと思うが
何だか楽しくなってきて次は誰を作るかで盛り上がっていた。

「丹羽・・・こんな所で何をしている。」

 突然響いた低音に会長の背がびくりと反応した。
 どうやらいつものように仕事をサボって抜け出してきたのだと分った。

「お・・・ヒデ!お前も作らねえか?」

 雪だるまを指し示しながらなんとか言い逃れを探す会長に辛辣な声が飛ぶ。

「そんなに雪だるまを作りたいのなら俺がお前を雪だるまにしてやろうか?
・・・なあ・・・哲っちゃん・・・」

「わ・・・悪かった・・すぐ戻るからそんな顔すんなって・・・
ほら・・・お前の雪だるま作ってやったんだぜ。」

 なっなっ・・・?と言いながらも大型犬は捕らわれの身となって連行されていく。

「王様・・・また仕事サボってたんですね。」

 恋人は笑いながら雪だるまの僕を抱えあげる。

「ふふっ・・・七条さん可愛い・・・」

 雪だるまに頬ずりする恋人に一瞬嫉妬し、そして見惚れた。
雪だるまにまで嫉妬する狭量な自分もきっと彼なら受け止めてくれる。

「ねえ・・・伊藤くん。そろそろ部屋に戻りませんか?
身体が冷えてしまったのです。
君が・・・・暖めて・・・」

 耳元に落とした声に頬から耳までが一気に朱くなる。
 愛しい・・・この感情がまた僕を優しくするのだ。

「はい・・俺も・・・暖めて欲しいです。」

 真っ赤に染まった耳元にちゅっとご褒美のキス。
 これから君は僕の凍てついた心と身体を
君の全てで暖めて溶かしてくれるのだろう。
 この雪がすぐに融けてしまうのと同じ様に・・・

 そしてこれからもずっと僕の心が凍らないように
いつも傍にいて暖めて欲しいと願う。
 もしこの先君を失うようなことがあったならば、
僕の心は永久に凍り付いてしまうのだから・・・

「七条さん・・・雪だるまここに並べておいていいですか?」

 恋人の言わんとすることが分った僕は、
伊藤くんと僕の雪だるまを並べて寄り添うように置く。

「こちらは遠くに置いて置きますね。」

 木の眼鏡がかかった雪だるまを
全くの別方向に置く僕の姿に恋人が小さく微笑んだ。

「ヤキモチ妬きの七条さんも大好きですよ。」

 ほら・・・そうやってまた君は僕の中の氷を溶かしていくのだ。

「この先また雪が降ったら二人で雪だるまを作りましょうね。」


 雪が降るたび・・・二人で雪だるまをつくろう・・・









 FIN

1月の無料配布本でした。
時期外れですがとりあえずいちゃいちゃしとけ!(笑)