「うわっ!七条さん、これどうしたんですか?」

ドアの外から“手が離せないので開けて下さい。”と言われて俺は自室の扉を開けた。
すると両手で大きな竹を抱えた七条さんが立っていた。

「先ほど丹羽会長が大きな竹を運んでみえたのでお手伝いをして差し上げたんです。
するとこれはお礼だとおっしゃって小さな枝を1本いただきました。
伊藤君と二人で七夕をしようと持ってきてしまいました。」

「えっそうなんですか?
王様が運んでいたのってロビーに飾るって言う大竹の事ですか?」

「はい。流石の丹羽会長もふらふらしていました。
長さがあるのでバランスが悪いのだとおっしゃっていましたが…
本当はかなり重かったのだと思います。
かなり意地になって運んでみえた様ですので、
おそらく性格の悪い誰かさんと賭けでもしたのでしょう。」

七条さんの左眉が引き下げられる。
あっヤバい!

「でっ…でもその竹で何をするんですか?」

「ふふっもちろん短冊に願いを書いて吊すんですよ。
七夕といえば他にする事は無いでしょう?」

「えっ?でも願い事ならロビーの竹でもいいじゃあありませんか?」

二人でって言われるとやっぱり嬉しいけどその為にわざわざこんな大きな竹を運んで来たのか…
やっぱり七条さんって変わってる。

「おやっ?伊藤君は僕が短冊に“僕と伊藤君がいつまでもラブラブでいられます様に”
とか“伊藤君のエッチな顔をもっと見れます様に”とか書いても大丈夫なのですか?」

「なっ…も…もうっ…バカな事ばっかり言わないで下さい。」

全くもう…七条さんが楽しそうに笑うのは分かっているけれど顔が赤くなるのを止められない。

「何を書く気ですか?エッチな事は禁止ですよ!
俺の部屋は和希とかも来るんですからね。」

「おや?では僕の部屋にしましょうか。僕の部屋ならば誰も訪ねて来ませんから。」

全くもう…ああ言えばこう言う。

「そういう問題じゃありません。
七条さん、書いた短冊は全部俺に見せて下さいね。
俺がオッケーした物だけ吊るしますから。」

そういうと七条さんは困った様に左眉を下げる。
むっ…そ…そんな顔したってこれは譲らないぞ。

「わかりました…では全てチェックして頂いてから飾る事にします。」

とりあえずほっとする。

「じゃあこの竹は何処に固定しましょうか?」

「そうですね。伊藤君の机の足に固定してみるのはどうですか?」

「あっいいですね。そうしましょう。」

下の方の枝を払って机の足に固定してみる。あっ結構いい感じ。

「では、早速短冊に願いを書く事にしましょうか?」

「はい。…あっ、俺がチェックするって事忘れないで下さいよ。」

念を押して言っておく。
七条さんは調子に乗ってしまうと軌道修正がきかない…
って言うより俺が結局丸め込まれてしまうからだけど。

「短冊って何にかけばいいんですか?」

俺がそう言うと七条さんはにっこり笑って鞄から四角い物を取り出す。
どうやら折り紙のようだ。

「折り紙なんてどこから持ってきたんですか?」

いくら七条さんでも元々部屋にあったなんて事はないだろうし…

「ふふっ普通に購買で売っていますよ。」

「あれ?そうなんですか?俺気にした事もなかったからある事も知りませんでした。」

そういえば自分が使わないだけで必要な人だっているかも知れない。

「これをこうして3分の1に切れば短冊の出来上がりですよ。」

七条さんは器用にカッターで折り紙を切る。
長い指に思わず見惚れる。
うわっやば!・・俺いつも七条さんの指に見惚れてる。
細くて長い指が好きだ。
その指がしてくれる愛撫を思い出して身体がズクッと疼く。

「どうぞ。伊藤君の分ですよ。」

そういわれて慌てて意識を引き戻す。

「あ・・有難うございます。」

それから俺達は思うままに短冊に願い事を書いた。
1つ書くたびに七条さんは俺に短冊を見せる。
俺が全部チェックすると言った事を実行しているらしい。
俺が頷くたびに何故か七条さんはとても嬉しそうな顔をする。
色々書いていて段々紙が山積みになって来たところで俺はあることに気付いた。

七条さんが書く短冊は全部俺のことだ。
七条さんが書いた短冊を見返してみる。
”伊藤君が健康でありますように”
”伊藤君が毎日楽しく過ごせますように”
”伊藤君のテストのヤマが当たりますように”
ぷっと思わず笑わずにいられない。

「七条さん。自分のことは書かないんですか?
七条さんの願い事って俺のことばっかりじゃないですか。」

「ええ。良いんですよ。
僕の願いは君が幸せでいることですから・・・
君が幸せになる事は僕が幸せになる事の同義語ですからね。」

七条さんは優しい・・・俺も七条さんが幸せになってくれる事が嬉しいと思う。

「ねっですからいつも僕の傍にいて下さい。
君が僕の傍で笑っていてくれる事が僕にとっての幸せなんです。」

嬉しい。素直にそう思う。

「はい。俺・・・いつも七条さんの傍にいます。
俺も七条さんが幸せになってくれる事が嬉しいです。」

見つめ返した七条さんのアメジストの瞳に情欲の焔を見つけ俺はそっと目を閉じた。








ぼんやりと目を開ける。
傍らに俺を抱きこむようにして眠る恋人を見つけ、起こさないようにそっと腕から抜け出した。

咽喉が渇いて仕方がなかった。
備え付けの冷蔵庫に近づき中から水のペットボトルを取り出す。
蓋を開けて一口飲んだ所でさっき書いた短冊が全て竹に下げられている事に気付いた。
きっと俺が寝て(気絶して)しまった後に七条さんが下げたのだろう。

カーテンをひいていなかった部屋に差し込む月の光が短冊をぼんやりと照らし出す。
その時一番下の短冊がキラリと光った。
それだけが銀色に輝いている。
他は全部普通の折り紙なのに・・・
確かさっき書いていた時はこんな色は使っていなかった筈だ。
気になって覗き込む。

その短冊は一番下の奥に隠すように下げられていた。
まさか・・・エッチな事書いたんじゃないだろうな。
七条さんならやりかねない。

そして覗き込んだ俺は思考が真っ白になった。
暫くそこにたたずんだ。
目から熱いものが溢れる。

「どうしたんですか?伊藤君。・・・・伊藤君?」

俺が起き出したので目を覚ましてしまったのだろう。
七条さんが俺を呼ぶ。
俺は泣き顔のまま振り返った。
俺の涙に驚いたのだろう。七条さんが慌ててベッドを降りてくる。
そのまま抱きしめられ暖かい胸に抱き締められる。

「どうしたのですか?何か恐い夢でも見ましたか?」

「ち・・・がいます。七条さん・・・これ・・・」

俺は今見ていた短冊を指差す。

「おや・・・すみません。見つかってしまいましたか。
そんな・・・泣くほど怒らなくてもいいではありませんか・・・ちゃんと取りますよ。」

七条さんは困ったように左眉を下げる。

「ち・・違います・・・七条さん。俺・・嬉しくて・・・だから・・」

それから先が言葉にならない。


七条さんは優しい。そして暖かい。



銀色の短冊に整った字で書かれた小さな文字達。
俺を抱く七条さんの腕にギュッと力がこもる。

「そんなに可愛い顔をしないで下さい。僕を誘っているのですか?」

七条さんは優しい・・・



たった1つの自分の願い事を書いた銀色の短冊。






”伊藤君の笑顔も泣き顔も全て包み込める人間になれますように”









 FIN

相変わらずのベタ甘です。
しかしお前の中の七夕はいつだって話ですが・・・
まあ7月中にUP出来て良かったです。
まあ砂吐きながら読んで下さい。(笑