分かってる・・・俺の恋人が常人と違っているのは良く分かっている。
でも・・それでも・・どう考えても納得がいかない事がこの世には存在するはずだ。

俺は目の前で気持ち良さそうに眠る恋人をまじまじと眺める。
あまりに気持ち良さそうに眠っているのでおれの怒りはMAXに達した。
俺は右手をグーに握るとわなわな震えながら押し殺した声で呼びかける。

「しーちーじょーうーさーんー。」

多分俺の額には今間違いなく怒りマークが3つくらい浮かんでいる事だろう。

俺の呼びかけにまるで最初から目が覚めていたかのようにぱちりと目覚めた恋人は、
俺の怒りなどお構い無しににっこりと微笑む。

「おや?目が覚めましたか?伊藤君。」

「目が覚めましたか?じゃあありません。一体どういうつもりなんですか?」

今日は俺の誕生日のはず・・なのに何故こんな嫌がらせを受けなければならないのだろう。
さっきまで・・それこそ目が覚めるまで俺はこの上なく幸せな気分でいたんだ。
大好きな人に自分の生まれた日を祝ってもらってプレゼントを貰ってケーキを食べて・・・
最後には俺も食べられたりしたけれど・・・
凄く幸せで七条さんが恋人でよかったって何度も思ったんだ。
だけど・・・前言撤回だ!!

「凄く素敵ですよ。僕の伊藤君は可愛すぎて・・・
何度眠っている君を揺り起こして君と一つになりたいと思ったことか・・・
本当に君は僕の太陽です。
愛していますよ。伊藤君。」

手放しの賞賛に思わず顔が赤らむ。

「そんな・・俺だって七条さんの事・・・」

うっかりはにかんだりして返事なんて返そうとして・・・ハタと気づく。

「って違いますよ!そうじゃなくて・・・これは一体何なんですか??」

「おや?ご覧の通りのネコミミですけど・・・」

さらっと返されて怒りが再沸騰する。

「だから・・・・どうして俺がこんなのつけてるんですか!!」

そうなんだ・・今・・・俺の頭の上にはなんとも素敵なネコミミが・・・
しかも・・しかもご丁寧にも目が覚めた俺の目の前には大きな姿見が置いてあったのだ。
目が覚めた途端、視界に自分の姿が映って先ず吃驚して・・・
それから自分の姿のあまりの違和感に鏡を覗き込んで二度吃驚して・・・

自分の頭にネコミミを付けられて喜ぶ男がどこの世界にいるっていうんだ。

全裸にネコミミ・・・うわぁ・・なんて萌えなシュチュエーション・・
・・・そんな風に思えるほど俺まだ人生経験積んでません。すみません。

って思わず土下座したくなるほどの衝撃だった。

「のぉああああああああああああああ〜〜〜〜〜〜。」

ってまるで漫画みたいに叫んだよ・・・俺・・・

「君が眠る前にお渡ししようと思ったのですが
まるで気を失うように眠ってしまったので・・・」

ウソ吐け・・・見えてますよ七条さん。羽と尻尾が・・・

「お誕生日のプレゼントの一つだったのですがすっかり忘れてしまって・・・
うっかりさんですね。僕は。」

最初からそのつもりだったのは見え見えだ。

すみませんね。
俺が体力が足りなくて眠っちゃって・・・
っていうか本当に気を失ったんですけど・・・
七条さんの気の済むまでヤってたら俺本気で死んじゃうんですけど・・・
あれ?ってことはひょっとして七条さんいつも満足出来てないのかな?
連想ゲームみたいにあれこれ浮かんできて頭の中は大渋滞だ。

あ・・・今何かマジで凹んだ
・・・ひょっとして俺だけしか満足できてなかったらどうしよう・・・

「おやっ?どうしたのですか?もっと怒るかと思っていたのですが・・・」

じゃあ何?俺をわざわざ怒らせたかったの??
なんだか頭の中がぐちゃぐちゃだ。

「酷いです・・・七条さん・・・」

思わず涙がジワっと浮かぶ。馬鹿・・泣くな俺・・・
別にネコミミ付けられたのが泣くほど嫌な訳じゃない。
俺ってば七条さんに愛される事が当たり前のように思っていたけれど・・・
七条さんはどうなんだろう。
俺、エッチとかするの七条さんが初めてだったし他と比べようもないけれど・・・

七条さん本当に俺でいいのかな?
ちゃんと気持ち良いって言ってくれるけどホントに俺満足させてあげられてるのかな?
ひょっとして満足していなかったら?
そんな事で嫌われちゃうの嫌だ。
それに・・それに・・・それでもいいって思われるのも嫌なんだ。
俺はちゃんと七条さんを満足させてあげたい。

「伊藤君。・・すみません。泣かないで・・・」

優しく包んでくれる腕に余計涙が出た。
いつの間にか俺はこうやって優しく与えられる腕が
当たり前の事になってしまっていた。
俺はちゃんと七条さんに与える物がある?
俺は一体何が出来るのだろう。
大好きな人に俺しか与えられない物。

「すみません。ちょっと悪ふざけが過ぎてしまいましたね。
・・・僕はいつもこうやって君を傷つけてしまう。
許して下さい。」

「ち・・がうんです・・・」

何て説明したら言いか分からない。
こんなに大切な人なのに・・・大切にしたいのに・・・

「では・・・落ち着いたら教えて頂けますか?」

恋人の低い柔らかな声が俺をあやす。
小さく頷きながら俺は与えられた腕に縋りつく。
こうやって与えられる物を甘受していればいいのだと思っていた。
俺はそれで心地よくて・・・幸せだけれど・・・
七条さんの幸せって何なんだろう?

「し・・ちじょう・・さん・・」

小さな小さなその呟きを聡い恋人は聞き逃さない。

「どうしたんですか?伊藤君。」

優しい声と腕に後押しされ、俺はおずおずと話し出す。

「七条さんは・・今・・幸せですか?」

「この世の誰よりも幸せ者だと思っていますよ。」

間髪いれずに返され少し驚いてしまう。

「君は僕が幸せでないと思うのですか?」

「いえ・・そういう訳ではないんですけど・・・」

俺は七条さんに縋りついた腕に力を込める。
するとそれ以上の力で抱きしめ返してくれる。
恋人の首にすがり付いて肩に顎を乗せる。
こんな事顔を見ながら言えない・・・

「七条さんは・・俺で満足できてますか?
俺といて幸せですか?
俺・・七条さんの為に何かしてあげられてますか?」

一気に言ってギュッと抱きつく。
すると数秒置いた後ふうっと大きな溜め息を吐かれた。

「全くもう・・・君ときたら・・・」

呆れたような口ぶりに腕を放してそっと顔を見る。
すると困った時の恋人の顔。

「本当に・・君には敵いません。
一体どのくらい執着されたら君は気付くのですか?
追い回しているのは僕ですよ。
本当なら君をこの部屋に閉じ込めて鎖で繋いで、
誰にも見せない。触れさせない。
君の頭の中が僕一人の事だけでいっぱいになってしまえばいいのに・・・。
常にそう思っている僕は少しおかしい。
解かってはいても君を放してあげることは出来ません。」

「俺を・・・繋ぎたいですか?
俺・・七条さんを不安にさせていますか?」

執着はお互い様だ。
人には言わないけれど俺だって結構嫉妬する方だと思う。
未だに西園寺さんと七条さんの会話にイライラしたりする自分がいる。

「ふふっ・・
でも君が他の人には見せない表情を僕だけに見せてくれる楽しみもありますし・・・
誰にも見せたくないと言いながら実は見せびらかしたかったりもします。
複雑な男心というヤツですね。」

少し冗談めかして言われ心が軽くなる。
こうやっていつも七条さんは俺を幸せにしてくれる。
いつだって俺の事を一番に思ってくれる優しい人。

「あ・・あの・・じゃあ・・その・・」

「何ですか?
君が思っていることを何でも聞いて下さい。
僕は君のためなら夜空の星でも集めに行きますから。」

本当に飛べそうで恐いです。その背中の羽根で・・・
ってそんな事言ってる場合じゃない。

「俺とのその・・え・・・・・・・・っち・・あの・・満足・・出来てますか??」

顔が見れなくてぎゅっと目を閉じ俯く。
するとそっと顎を取られ上を向かされる。

「ねえ・・伊藤君?」

静かな・・静かな呼びかけ・・・
俺は顔を真っ赤にしたままそっと目を開ける。

カーテンを引いていなかった室内に差し込む月明かりが、
真剣な顔をした恋人に降り注ぐ。
怒らせてしまったのだろうか?
でも・・俺はどうしても知りたかった。

もし・・七条さんが仕方ないと諦めたりしていたら嫌なんだ。
それだったらもっと努力して
キチンと気持ちよくさせてあげたい。

「もう・・本当に君には敵いません・・・」

溜め息と共に吐き出された言葉。

「あんなに求められてまだ僕が満足していないと思うのですか?
満足しないSEXしか出来ないのならあんなに際限なく求めたりしないでしょう?」

頭の天辺まで歓喜が駆け抜けた。
嬉しい・・・本当にそう思ってくれているんだ。

「う・・れしいです。七条さん。
俺・・・何だか俺だけ気持ち良くなってるんじゃないかって思っちゃって・・・
すみませんでした。」

「ふふっ・・・気持良いのですか?」

あっと思ったときにはもう引き寄せられ暖かい胸の中に抱き込まれた。
あったかい・・・七条さんは暖かくて優しくて・・・

「ねえ伊藤君。
あんまり可愛い格好で可愛い事ばかり言わないで下さい。
僕の理性も限界ですよ。」

可愛い格好??

「似合ってますよ。ネコミミ・・・」

「のぉあああああああああああああああ〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

額にチュッとキスを落とされ俺は思わず七条さんを突き飛ばし大声で叫んだ。

「おや?先程と同じ反応ですね。
ふふっやっぱり君は可愛いです。」

やっぱりさっき起きてたんだ〜〜〜。
前言撤回!!七条さんは意地悪だ。

ミミを取り除こうとしたその腕を取られゆっくりと恋人が覆い被さってくる。

「ふふっ・・君が生まれてきてくれた今日という日に感謝します。
お誕生日おめでとう。
啓太君。」

あからさまに呼び名を変えられ
先の展開を予期して身体の奥がズクンと疼いた。

「あ・・りがとうございます・・・臣さん。」

だから俺も呼び名を変える。
2人だけの秘め事。

「全く・・君ときたら・・・
愛してますよ。啓太君。」

「俺も・・・です。臣さん。」

アメジストの瞳が幸せそうに細められたのを見て
俺はそっと目を閉じた。









 FIN

啓太お誕生日おめでとう〜〜〜
ってどんだけ過ぎてる!
ゴメンよ啓太。折角のお誕生日なのにこんな事させて・・・
シンマの萌えの為に付けられたネコミミでした。
兎にも角にも君が生まれたこの日に乾杯!