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「ふふっこんな所で寝てしまって・・・無防備すぎますよ。伊藤君。」

待ち合わせた東屋に姿が見えなくて近くを探してみると芝生の上でうたた寝をしている彼を見つけた。
今日は随分と暖かい日ではあるが、風邪を引きはしないだろうか。
ところが僕の声に反応したのは彼の横で一緒にうたた寝をしていたらしい大きな三毛猫だった。
僕の姿を見つけると尾をふさりと動かしチラリとこちらを見る。
どうやら隣に座ることを許されたらしい。

「ありがとうございます。トノサマ。伊藤君を守っていてくださったのですね。」

彼の肩口で丸まっているトノサマは尾をパタリと振って答えてくれる。
彼の横に座り込み柔らかいくせ毛に指を埋める。
直射日光を浴びていたからだろう。彼の茶色の髪がとても暖かい。
確かにここに座っていたらうっかり居眠りをしてしまうかもしれない。

「んっ・・・」

小さな声が聞こえて伊藤君は目を覚ましたようだ。

「あ・・れ?し・・ち条さん?お・・れ?」

「おはようございます。伊藤君。
今日はとても暖かいですけれどこんな所でうたた寝などしては風邪を引いてしまいますよ。」

まだ少し寝ぼけているらしい彼の手を取りそのまま口付ける。

「あっわわっ!すみません。俺・・うっかり寝ちゃったんだ・・・」

たったこれだけのスキンシップで赤くなる彼が愛おしい。

「ダメですよ。こんな所で無防備に眠り込んだりして・・・
僕以外の誰かが見つけたらどうする気なんですか?
トノサマが守ってくれていたから良かった様なものです。」

「あれ?そうだ、
俺トノサマがあまりに気持ち良さそうに昼寝をしていたんで一緒に横になってみたんです。
そうしたらとっても空が綺麗でポカポカしていて・・・
すみません。随分待たせてしまったんじゃあないですか?」

僕に手を握られたまま手首の時計を確認した彼は少し慌てたようだ。

「大丈夫ですよ。面倒な仕事も一段落したことですし今日はここでのんびりしましょう。」

伊藤君の隣にピッタリと座った僕の膝の上にトノサマが乗ってきた。
普段トノサマは僕の膝の上に乗ったりはしない。
とても仲はいいけれど対等な間柄だと彼は認識しているのかも知れない。
そして今日は折角の伊藤君との日向ぼっこを邪魔された仕返しといった所だろう。
軽く膝に爪が刺さる。
それをたしなめながら伊藤君に聞いてみる。

「ねぇ伊藤君。トノサマはとても珍しい猫だという事をご存知ですか?」

「え?人の言葉が解るからですか?」

僕の上のトノサマの咽喉を撫でながら伊藤君が答える。

「いいえ。もちろんトノサマはとても利口な猫ですがそういう意味ではありません。
元々三毛猫のオスは3万分の1の確率でしか生まれてこないのです。」

「え?そうなんですか?どうしてなんでしょう。」

彼の空色の瞳が僕を見上げる。この真っ直ぐな瞳をとても愛おしいと思う。

「難しい話をまとめてしまえば、
クラインフェルター症候群という染色体異常でしか三毛猫のオスは生まれてきません。
それだけでも珍しいのですがトノサマはもっと凄いんですよ。」

「ええ?なんですか?焦らさずに教えて下さいよ。」

「ふふっ。
三毛猫のオスは先ほども言いました様に染色体の異常によって生まれるいわば突然変異体です。
ですので総じて生殖能力を持ちません。
ところが海野先生にお聞きしたところトノサマには生殖能力があるらしいのです。」

僕の説明に彼はきょとんとした顔で見上げる。
これが本人にとっては無意識の行動であるから堪らない。

「生殖能力って・・・つまり赤ちゃんが作れるかどうかって事ですか?」

「そうです。今までにも世界で2例、オーストラリアとイギリスで確認されています。
今現在では愛知県のペットショップで飼われているオスのスコティッシュホールドがいるだけです。
ですので正式に発表すればトノサマは世界でたった4例目の珍しい猫ということになるんですよ。」

僕の言葉を聞いてトノサマが得意そうにぶにゃ〜おと鳴く。
どうやらご機嫌が直ったらしい。
伊藤君は僕の膝の上からトノサマを抱き上げ顔を見ながら呟いている。

「へぇ〜、トノサマ。お前凄いんだなぁ。
今までそんな事ちっとも知らなかったけどそんなに凄い猫なんだ。

・・・じゃあやっぱり何のとりえもないのって俺だけなんだ・・・」

おや?聞き捨てならない事を言いましたね。
まだそんな風に悩んでいるのでしょうか?
それともまた誰かによからぬ事でも吹き込まれたのでしょうか?

「どうしたんですか?伊藤君。
君にしては珍しくネガティブになっているようですが、誰かに嫌な事でも言われましたか?」

僕の問いかけに彼はフルフルと首を振る。
どうやらそうではないらしい。

「ではどうしてそんな風に思ったのですか?
君に素敵なところは沢山あるといつも言っているではありませんか。」

「それは・・・分かってはいるんですけど・・
この間から西園寺さんも七条さんも凄く忙しそうなのに・・
俺に出来ることって書類の整理とかお茶淹れたり位しか無くって・・・
俺にもう少しとりえがあればお二人とももう少し楽なのに・・・とか思ってしまうんです。」

彼の空色の瞳が少し濃い色に変わる。泣き出しそうなのだろう。
彼の背後に回り背中から抱きしめる。

「伊藤君・・人にはそれぞれ得手不得手があります。
僕には僕の・・・郁には郁の、そして伊藤君には伊藤君の役割があります。
僕はどんなに望んでも伊藤君や郁にはなれません。
君がいて下さるだけで僕と郁がどれだけ心休まっているのか・・
君には想像も付かないのでしょうね。
そして君がそうやって僕や郁のことを思ってくれる事がとても嬉しいと思います。
いつだって君は僕を癒してくれる。
君はもっともっとその事を誇ってくれてもいいと思うんですが。」

彼の柔らかいくせ毛に顔を埋めキスをする。

「でも・・・やっぱり・・俺・・」

「ねぇ伊藤君。
君が入学してくる前は僕達は2人で全ての業務をこなしてきました。
ですから僕達にとっては君が書類の整理をしてくれるだけでもとても助かっているんです。
その上忙しくてイライラしている郁は僕にも手に負えませんからね。
伊藤君が郁をなだめてくれて本当に僕は助かっているんですよ。」

クスッと腕の中の彼が笑みを洩らす。

「また、七条さんはそんな事言って・・・
西園寺さんイライラなんてしないじゃあありませんか。」

「とんでもない。機嫌が良いのは伊藤君がいるときだけですよ。
僕には平気で当り散らしますから。ああいう時の郁はまるっきり子供ですからね。」

彼は抱いていたトノサマを降ろすとくるりと僕に振り返る。
僕が惹かれて止まない空色の瞳は少し潤んでいて太陽の光に輝いて
我慢が出来ずに思わず瞼に口付けを落とす。

「すみませんでした。七条さん・・・
七条さんのほうが疲れているのに愚痴なんて言って・・・
俺恥ずかしいです。」

「そんな事はありませんよ。
僕は伊藤君が思っている事、感じてる事、考えたこと・・・
全てを知りたいと願う欲張りな人間です。
こうやって君が思ったことを言ってくれる事がどれ程僕を喜ばせているか、
僕の心臓を開いて見せて差し上げたいくらいですよ。」

すると彼は少し焦ったように僕の胸の上に手を置く。

「何だか七条さんが言うとシャレにならない感じなんでやめて下さい。」

「おや?何気に酷いんじゃありませんか?気持ちの問題ですよ。」

その時ずっと黙っていたトノサマがぶにゃ〜おと鳴きチラリと僕を見る。

「ふふ。すみません。ではお言葉に甘えて・・・」

僕が答えると彼は尾を翻して学園棟の方へ帰っていった。

「七条さん・・今トノサマ何て言ったんですか?」

不思議そうな顔でたずねる彼が愛おしい。

「ふふっ。それは・・・ナイショです。」

ウインクしながらいつものセリフを口にする。

「ええっ?ずるいです。教えて下さいよ。お願いですから・・・七条さん。」

「ふふっ伊藤君こそずるいですね。
僕が君のお願いに弱いことはご存知でしょう?
それでは・・・キスして下さい。そうしたら教えて差し上げますよ。」

彼の頬が朱く染まる。
とっくにプラトニックな関係ではなくなっているというのに彼のこの初々しさが堪らない。
暫く考えた後彼は僕の頭を引き寄せる。
羞恥心より好奇心の方が勝ったようだ。

おずおずと近づいて来た唇を逃さず堪能する。
彼とのキスはいつも頭の中が真っ白になるくらい気持ちが良い。
他人をこんなに愛おしいと思える日が来るなんて・・・
いつだって君は僕を暖かく癒してくれる。今日のこの日差しの様に・・・
長く永いキスの後うっとりと目を閉じた彼の瞼におまけのキスを落とす。
ゆっくりと開かれた瞳に心を鷲掴みにされた様な衝動を覚える。
全く君は・・・どれだけ僕を煽ったら気が済むのでしょうね。

「勝手にやってろ・・・と・・」

僕の言葉に彼がえっ?と小首をかしげる。

「トノサマの言葉です。勝手にやってろ。と言われました。」

きょとんとした彼の顔が可愛らしい。

「ですからお言葉に甘えて勝手にさせて頂く事にしました。」

「ちょっ・・・ちょっと・・七条さん?」

芝生の上に押し倒されて彼は戸惑った声を上げる。
彼の身体の上に重くならないようにのしかかると心からの言葉を彼に告げる。

「君は僕にとって唯一無二の存在です。
どうかとりえが無いなんて言わないで下さい。
君が出来ない事は僕がやります。ですから君は僕が出来ない事をして下さい。
2人でいれば今まで出来なかった事が出来るようになる筈です。
それって素敵なことだと思いませんか?
無敵の恋人ですね。」

僕の言葉に彼は輝くような笑顔で答える。

「はい。俺、頑張ります。
俺も七条さんにとっての無敵の恋人になりたいです。」

君が与えてくれたこの心をどうやって君に届けよう。

「七条さん。大好きです。」

そうですね・・・大切なのはこの言葉なんですね。

何万回でも伝えたい・・君に・・・


「愛してますよ。伊藤君。」









 FIN

セルロイドの福良雀様に捧げます。
因みにタイトルは福良雀様の新刊のパクリです。(堂々宣言!)
七×啓+トノサマというリクでしたがちゃんと出来ているでしょうか?
福良雀様 こんな駄文でよければ煮るなり焼くなりご自由に・・・
また遊んでください。大好きです。(こんな所で大胆告白!)