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「・・ん・・・さん・・・岩井さん。」

何所かで自分の名前が呼ばれている事に気付きはっと我に返った。

「け・・・いた?」

「はい。随分呼んだんですよ。岩井さん凄く集中してましたね。
あまり根を詰め過ぎるとまた篠宮さんに怒られますよ。」

クスッと笑うと俺の横にそっと腰を下ろす。

「今回は梅ですか?綺麗ですね。」

横から俺のスケッチブックを覗き込み啓太は言う。
しかしどうして此処に啓太がいるのだろう。

今俺がいるこの場所は学園島の中でも最も外れにある一角だ。
桜が殆んどの園内に何故かポツリと1本だけ植わっている梅の花。
それを知っている者さえ多分少ないだろう。

「岩井さんを探していたんです。
そうしたら篠宮さんが多分此処だろうって教えてくれました。」

俺は多分余程怪訝な顔をしていたのだろう。
俺が疑問を口にする前に本人が答えてくれた。

「そうか・・・それで・・俺に何か用事だった・・のか?」

すると啓太は晴れやかに笑う。抜けるような青空をバックに・・
ああ・・・啓太を描きたいな。頭の中のスケッチブックにいくつもの線を描く。

「岩井さん。お誕生日おめでとうございます。」

急に言われた言葉を理解する事が出来なくてぼんやりと啓太を見返す。

「た・・ん生日?」

「そうですよ岩井さん。自分のお誕生日忘れないで下さいよ。」

ああ・・・そうだった。元々誕生日を祝って貰った事など殆んど無かった。
この学園に入ってから篠宮がプレゼントと料理を作ってくれた事だけだ。
だから自分の誕生日を覚えている必要など無かった。

「あの・・・これプレゼントです。」

俺の手に載せられた紙袋。ようやく実感が湧いてくる。

「ありがとう。開けても・・・いいか?」

ああ・・嬉しい物なんだな。こうして誰かからプレゼントを贈られるということは。
こっくり頷く啓太を見て手元の袋を開ける。

「多分これであってると思うんですけど・・・違ってたらごめんなさい。」

中には普段俺が愛用しているスケッチブックと鉛筆。それとドリンク剤が2本。

「合っているよ。啓太・・・ありがとう。」

うかつにも涙が出そうになった。
この子はこんなにも真っ直ぐ俺の事を見ていてくれたのだと。
多分付き合いの長い篠宮でさえ俺が使っている鉛筆の種類など知りはしない筈だ。

「良かった・・・俺、絵のことなんて全く分からないし・・・どうしようと思って・・・
でも確かこれだったよな、と思って。」

自分の為に多分入った事も無い画材屋に足を運んでくれたのかと思うと心が暖かくなる。

その時1本のドリンク剤が転がり落ちた。

「あっ・・それは七条さんからです。
お誕生日のお祝いとこの間のお礼を兼ねて、だそうです。」

「お礼・・・?」

何の事だろう。七条にお礼を言われるような覚えは無いんだが・・・

「あ・・あの絵のことです。俺が貰った・・・
七条さんがどうしても欲しいって言うのであげてもいいですか?
ってこの間俺聞きましたよね?」

「ああ。あの事か・・・あれは別に啓太にあげた絵だ・・・啓太の好きにして構わない。」

俺が描いた啓太の笑顔。
七条はその笑顔が自分に向けられたものだと気付いたのだろう。
聡い彼のことだ・・・

俺は常に同じ笑顔で他人と接していた頃の七条を思い出す。
特に深く話をした事は無いが彼は多分心に大きな傷を負っていたのだろう。
どこと無く自分と似た色に見える。
いや・・こんな俺と同じなどと言われたら面白くないだろうが・・・
啓太が入学してきた事により七条は大きく変わった。
見た目には変わっていないのだろうが彼を纏うオーラの色が変化した。

「ねえ・・・岩井さん。
この梅の花1本の木なのにピンクと白の花が咲いてますよ。
凄く素敵ですね。なんていう種類なんでしょう?」

「ああ・・・毎年2色の花が咲いている・・・
それが気に入って毎回スケッチしているんだが・・・
梅の種類までは・・分からない。」

そういえば花の種類なんて考えてみたことすら無かった。

「その花は(輪違い)という種類ですよ。」

背もたれにしていた樹の後ろから声を掛けられて
隣に座っていた啓太がビクッと肩を震わせた。

「し・・・七条さん。いつからそこにいたんですか?
もう!びっくりさせないで下さいよ。」

頬を膨らませる啓太に

「おや?驚かせてしまいましたか?すみません。
今来た所ですよ。・・・こんにちは。岩井さん。」

と七条は最近見せるようになった笑顔で答える。

「ああ・・・七条。これ・・すまない・・・ありがとう。」

「いえ、そんな物で申し訳ないのですが・・
なんとなく岩井さんには必要かと思いまして。」

毎回篠宮にも怒られるが俺はそんなに食事をしていないのだろうか?

「そうか・・・ありがとう。」

後輩達にまでこんな心配を掛けている自分はどうかとも思うが、
とりあえず祝ってくれる事は嬉しいことなんだな。と思う。

「七条さん。さっき梅の花の種類、何って言ったんですか?」

「ああ・・・輪違い、というのです。
1本の木から文字通り1輪1輪異なる色の花が咲きます。」

1本の樹から違う色の花。
まるで今の啓太と七条のようだ。
全て正反対のように思えるのに根本では一緒のような気がする。
どちらかの花が枯れたら樹自体が朽ちてしまうのではないだろうか。

「岩井さん。日が落ちて寒くなってきましたから今日はもうこれくらいにされたらどうですか?」

七条に言われてそういえば肌寒さを感じるなと思い同意をする。

「ああ・・・そうだな。そろそろ・・・寮に帰るか・・・」

「じゃあ今日は俺達と一緒に夕飯食べませんか?」

啓太が澄んだ空色の瞳で問いかける。
やっぱり心配されてるな。クスッと浅く笑う。
俺が頷くのを確認すると啓太は立ち上がる。

「あー俺今日は何を食べよっかな?
やっぱりポテトサラダとハンバーグにしようかな。」

元気な啓太は既に頭の中が献立で一杯らしい。
そんな啓太を見つめる七条の笑顔が柔らかい。
ああ・・・こんなに人を慈しむことの出来る人間だったんだな。七条という男は・・
彼が幸せそうで良かった。
人は誰でも心の闇を持っている。
彼の大きすぎた闇の中から啓太が救ってくれたのだろう。
七条の持つ色が柔らかい光を放つ。
こんな綺麗な色を見せて貰えたことが1番のプレゼントだ。

肩を並べ歩く二人の後ろから小さく小さくありがとう。と呟く。
聞こえた筈が無いのにふと肩越しに七条が振り向き・・・優しく微笑んだ。





FIN


岩井さんお誕生日おめでとう。(ちっとも祝ってない)
岩井さん目線の七啓とでも言えばいいのでしょうか?
シンマの中の岩井さんはこんな感じ。
啓太・郁ちゃん・岩井さんは懐深いです。
岩井さんには幸せになって欲しいです。