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「七条さん。これ食べませんか?」

俺は用意してきたポットと3色団子を差し出す。

「おや?用意がいいですね。では、頂きますね。」

俺の大好きな長い指が団子の串を掴む。
七条さんの指は細くて長い。
真っ直ぐなその指にすら見惚れて俺は思わず呆けてしまっていた。

「どうしたのですか?伊藤君。そんな可愛い顔をして。」

ちゅっと音を立てて頬にキスを落とされてはっと我に返る。

「ちょ・・七条さん。ここ・・外ですよ。」

照れくさくて思わず少し怒ったような口ぶりになってしまう。
俺のそんな照れ隠しなど百も承知な恋人はふふっと笑うともう一度頬にキスを落とす。
挨拶程度のバードキス。
それなのに俺は触れられた頬が火照ってしまって七条さんの顔を見ることが出来ない。

「今年は・・・早く散ってしまいそうですね。
俺、桜の散るところが大好きなんですけど少し寂しい気持ちになりますね。」

誤魔化したくて無理に話題を違うところに持っていこうとする。
もちろん七条さんはそんな事分かっているに決まっているけれどそれでも俺の話に付き合ってくれる。

「昔は・・・桜が嫌いでした。
これ見よがしに美しい花をつけその美しい姿を見せ付けるように散っていく。
自己主張をしすぎている様な気がして・・ふふっ、やっぱり僕は歪んでいますね。」

「そんな・・・歪んでいるだなんて・・・そんな事言わないで下さい。」

少し心配になってその端正な顔を見詰める。
するとまたふふっと笑われた。
その微笑みに俺はほっと胸をなでおろす。

少し前の七条さんはこういった幼い頃の話題を口にするとき寂しそうに微笑んでいた。
ところが最近はまるで懐かしむように語ってくれる。
その変化が俺の存在の為だとしたらこんなに嬉しいことはないと思う。

「ところで伊藤君?一つお伺いしたいのですが。」

見上げていた桜から視線を俺に戻し七条さんは柔らかく問う。

「何ですか?七条さん。」

そんな風に見つめられると頬が朱くなってしまう。

「お花見に誘って頂いたのはとても嬉しいのですが・・
何故今日だったのでしょうか?」

七条さんがそう思っても当然かも知れない。
だって今日は木曜日で、あと2日すれば週末になって
どこででもお昼からお花見が出来るというのに。
でも俺には今日にこだわる理由があったんだ。

「あの・・・今日は・・その・・
旧暦なのか何なのか良く分からないんですけど、俺の実家って今日がひな祭りなんです。」

「おや?そうなのですか?」

七条さんはとても物知りな人だけど日本の風習には少し疎い。
だから俺が七条さんに教えてあげられる数少ない事の一つなんだ。
だからわざわざ今日授業が終わってから七条さんを誘った。
こんな時期に雛あられや菱餅なんて売ってないからお花見用の三色団子を買った。

「俺の母さんの実家がその日にやるみたいで、
俺と妹はずっとその日がひな祭りだと思ってたんですよ。
3月の3日が何の日なんだろうってずっと不思議で。」

そう言うと七条さんがふわりと笑う。

「それで伊藤君はこの日にお花見とひな祭りのお祝いをしようと思ったのですね。」

「はい。俺、毎年この日は妹と雛あられの取り合いしてたんです。」

妹と仲は良いと思うけど生意気なヤツだとも思う。
特に最近ませてきて何かというと七条さんを家へ連れて来いという。
まさかばれてはいないと思うけど最近の女の子は分からないからな〜〜。

「ふふっ・・朋子ちゃん。お元気ですか?」

「はい。さっきメールしておきました。もう七条さんを連れて来いって煩くって。」

俺も花見団子を一つ頬張る。
あんこの入っていないこの団子なら七条さんも食べれると思ったから選んだのだけど
思った以上に美味しくて幸せな気分になる。

こんなに綺麗な桜の下で傍には大好きな恋人がいて美味しい物を食べれる。
俺は周りに人がいないことを確かめてそっと七条さんにもたれかかった。

「今日は随分と甘えん坊さんの日なのですね。
お家が恋しいですか?」

寄りかかった肩をそっと抱き寄せられほっとタメ息を付く。

「そういう訳ではないんですけど、なんとなく今日は妹の事思い出しちゃって。」

へらりと笑うと俺を抱き寄せた腕にギュッと力がこもる。

「ねえ、伊藤君。出来れば僕は勝ち目の無い闘いはご遠慮願いたいのですが。」

七条さんの言っている事がさっぱり分からなくて俺はそっと顔を上げる。
するとそこには少しイタズラっぽい恋人の顔。

「何のことですか?勝ち目の無い・・・って。」

「だってそうではありませんか。
ご家族と君を取り合っては勝てる訳ありませんから。」

そう言いながら七条さんは当たり前の様にウインクをする。
そのあまりに自然なウインクにすら見惚れてしまった俺は相当重症だ。

「もう、そんな事ばっかり言わないで下さい。
・・・俺・・家族より七条さんの方が大事ですよ。」

隣の恋人の今の望む答えをきっぱり言える自分が誇らしい。
こんな会話も前はあまり出来なかった。
七条さんが不安そうな顔をするから・・・
こんな風に笑って会話出来るようになって本当に嬉しい。

肩を抱かれたまま頭の天辺にキスを落とされ身体がふにゃりと融けてしまう。

「えへへ・・なんだか幸せです。・・・うわっ」

夢見心地に呟くと急に両腕で抱き寄せられ、
気付くと向かい合わせで七条さんの膝の上に乗せられていた。

「伊藤君。愛していますよ。」

鼻の頭にキスを落とされくすぐったくて身を捩る。

「へへ・・俺も・・大好きです。」

俺もそっとキスを返す。
すると途端に深くなる口付け。

「んんっ・・・」

思わずここが何処だかも忘れてこのキスに溺れそうになる。
すると突然俺のポケットでメールの着メロが鳴った。
この着メロは朋子だ。
途中で中断されたキスに苦笑しながら七条さんがそっと囁く。

「いいですよ。メール確認して下さい。
・・・その代わり今晩は覚悟して下さいね。
焦らされた分だけたっぷり頂きますから。」

そんな言葉を囁かないで欲しい。
耳まで真っ赤になりながら俺は七条さんの膝の上で携帯を開く。

[お兄ちゃん。メールありがとう。
今年はお兄ちゃんがいないから雛あられ食べ放題!
嬉しいけどちょっと物足りないかも。
ところで七条さん元気?今度一緒に帰ってきてね。
写メ撮らせてもらいたいんだ。もう、学校で話したら見せてって煩くってさ〜〜〜。
なんならお兄ちゃんが七条さんの写真撮って送ってくれてもいいよ。な〜〜んてね。
あ・・ちゃんとお兄ちゃんの誕生日には帰ってきてよね。
プレゼントなんてあげないけどさ。]

七条さんの首に抱きついたままメールを読んだ俺はそれをそのまま七条さんの顔の前に持っていった。
チラリと画面に目をやった七条さんはとても晴れやかに微笑むと俺の耳を軽く噛む。

「んっ・・・・」

思わず洩れてしまった吐息に顔を赤らめているとそっとその耳に囁かれる。

「全く・・・僕の最大のライバルは抜け目がありませんね。
こんなタイミングはひょっとしたら何処かから見られているのでしょうか?」

そう言いながら口づけをくれる恋人の腕に俺はギュッと抱きついた。

ふわりと吹いた風が頭上の桜を散らせる。
恋人の銀の髪にそっと舞い落ちた桜の花びらを手のひらに掬う。

まるでその花びらが彼の優しさのような気がして愛おしい。

「ねえ・・そんな風に見つめないで下さい。
花びらに・・・嫉妬してしまいそうです。」

少し拗ねた恋人の声色。
恋人の嫉妬がこんなに嬉しい物だと教えてくれたのも目の前の恋人だ。
俺は花びらを放り出すと大好きな人にぎゅっと抱きついた。
優しく包んでくれる大きな胸が、長い腕が、甘く蕩けさせてくれるその声が・・・

とても大好きだから・・・

全てを大切にしていきたいと思う。
この一瞬をいつでも後悔したくない。
だからこそこの気持ちを偽ったりしない。


「大好きです。七条さん。」








 FIN

キリ番を踏んで下さったもっちゃんに捧げます。
しかも今日はお誕生日だそうでおめでとうございます。
リクとは少し違ってしまったかも知れませんが糖度は高くしてみました。
なんせ自分が余りに物を知らないので・・・
いい加減な事を書いていたら申し訳ないです。