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その朝、俺が目を覚ますと臣さんはとても綺麗な瞳を細めて俺を見つめていた。
びっくりしてしまって思わず怒ってしまった。

「どうしていけないのですか?」

そう言われてしまうとなんて答えていいのか分からないけれど・・・

「と・・とにかく俺が恥ずかしいです。
人の寝顔を見ているなんて趣味が悪いですよ。」

「そうなのですか?どうせ僕は眠ったりしないのですし、
その間君の寝顔を見つめているくらい良いじゃあありませんか。」

「もう!それでも駄目です。俺が恥ずかしいんです。」

臣さんは理解が出来ないという顔で俺を見返す。

「分かりました。
啓太君が嫌な事はしませんから、そんなに怒らないで下さい。」

ちょっとしょんぼりした臣さんはとても可愛いと思う。

こんな綺麗な人に可愛いって失礼かも知れないけれど
何だか大型犬が怒られてシュンとしてるみたいだ。

「怒ってませんよ。だからそんな風に落ち込まないで下さい。」

そういうと途端にパッと顔を上げ嬉しそうに笑う。
この人はとても純粋だ。
今までずっとこの館から出ることなく暮らしてきた所為だろうか・・。

俺の朝食を用意してくれた臣さんは食後の紅茶を淹れながら言う。

「ねえ、啓太君。今日は君をお連れしたい場所があるのですが・・・」

「え?何処ですか?」

「ふふっそれはナイショです。」

人差し指を口に当て優雅にウインク付きで返されると
追求する気がなくなってしまう。

「分かりました。着いてからのお楽しみなんですね。」

「はい。そういう事にしておいて下さい。」

何処だろう。
俺はわくわくしながら香りの高い紅茶を飲み干した。



















「うわぁ~~~!」

「大丈夫ですよ。絶対に落としたりしませんから。」

臣さんの言っていた、連れて行きたいところって此処?
俺は今臣さんにお姫様抱っこをされて大空を飛んでいた。
自分の住んでいる町が小さくなって何だか航空写真を見ているみたいだ。
慣れてくると風が心地よくて気持ちがいい。

「すっごく素敵です。俺こんなの初めてです。」

「良かった。気に入って頂けて・・・
昔ご主人様もこの空中遊泳がお好きだったのです。
啓太君も翼を持っていないと言っていたので楽しんで頂けるかと。」

「はい!とっても気持ち良いです。風が気持ち良いし・・・んむっ」

振り返った途端にキスをされた。
その感触がとても心地よくて俺は思わず目を閉じる。
ちっとも嫌じゃなかった。
臣さんは両手が塞がっているのだから逃げようと思えばいくらでも逃げる事は出来た。
でも俺は、逃げるどころか自分から彼の頬に手を伸ばした。
彼の頭を抱き寄せる。自然と深くなる口付けに呼吸すら苦しくなってくる。

「ん・・・は・・ぁ・・」

長く永い口付けのあと、肩を喘がせている俺に臣さんがそっと呟く。

「本当に・・・
こんなに君の事を好きになってしまって僕は一体どうすればいいのでしょうか
・・あの館に君を閉じ込めて誰の元にも帰したくないと思ってしまうのです。」

俺もそう出来たらいいのに・・・心の中でひっそりと思う。
でも現実問題としてそんな事は出来ない事もわかっている。
だからこそこの一瞬を忘れたくないと心に誓う。
こんなに愛してくれたこの人と見た雄大な景色を目に焼き付けておきたいと願う。

「ねえ臣さん。
こんなに素敵な景色を見せてくれてありがとうございます。
俺、この景色一生忘れないと思います。」

「そうですね。僕も忘れません。
君とこうして2人だけで生きていけたらどんなに素敵でしょう・・・」

呟くように続ける彼の心が痛いほど伝わってきて胸が締め付けられた。
多分、お互い分かっている。この関係が長くは続けられない事を・・・
それでも少しでも長く一緒にいたいと思う。

「ねえ臣さん。」

「なんでしょう?」

俺は少し息を吸い込み彼の目を覗き込む。

「俺・・・臣さんの事・・・愛してます。」

やっと分かったこの気持ち。好きと愛してるって似ているようで違う。
俺はこの人を自分の物にしたいんだ。
これが自分のエゴだという事も分かっている。
でも・・・それでも俺はこの人が欲しいと思った。

「け・・いた君・・・」

呆然としたように見開かれる綺麗な紫の瞳。
初めて見るその表情すら愛おしいと思った。

「本当ですか?君は僕の気持ちを受け止めてくれるのですか?」

思わず涙が出そうになった。
この人を助けてあげたい。そう・・孤独の中から・・・
いつだって俺が傍に居て支えてあげられたら良いのに・・・

「俺・・俺の方こそお願いします。俺の気持ち受け止めてくれますか?」

「当たり前です・・・
僕は君に何もしてあげられないかも知れません。
それでも出来うる限りの事をしますから
・・・僕を愛して下さい。」

その時、臣さんの瞳から涙が零れ落ちた。
何て・・・綺麗なんだろう・・・
その美しさに見惚れていた俺は無意識に彼の涙を拭っていた。

「これは・・・何ですか?」

臣さんは呆然としている。
ひょっとしたら泣くという事を知らなかったのかも知れない。

「きっとうれし涙だと思いますよ。
人は嬉しいときにも泣けるものなんです。」

「嬉しいとき・・・」

俺まで涙が溢れてしまう。
俺はきっとこの涙も忘れないと思う。

「これからは2人で一緒に泣きましょう。
その代わり泣くのは嬉しい時だけにしましょうね。」

俺がそう言うと臣さんはこっくりと頷く。
それを見て俺は余計に泣けてきてしまって・・・
その顔を見られるのが嫌で彼の肩に顔を埋めて泣いた。

















久しぶりに声を上げて泣いた俺は
何だかばつが悪くて臣さんの顔が見れなかった。
でもとてもすっきりとしていて気持ちはとても穏やかだった。

館に戻り臣さんが淹れてくれた紅茶で一息つく。
俺はこれからどうすればいいんだろう。
そんな事を考えながら小さく溜め息をつく。

「疲れてしまいましたか?」

そっと肩から抱きしめられて慌てて頭を振る。

「いいえ。そんな事ないです。とても楽しかったです。
ご主人様ともああやって空を飛んでいたんですか?」

俺が聞くと彼は懐かしそうに目を細める。

「はい。ご主人様は足がご不自由でしたので車椅子ごと空を翔るんです。
でもご主人様とは夜しか飛んだ事がありませんでした。
日光に当たられるのがお好きでは無かった様なので。」

「へえ・・・夜も綺麗そうですね。
今度は夜に連れて行って下さいよ。」

夜景がとっても綺麗そうだし、何より臣さんには夜が似合うと思った。

「ふふっそうですね。では今度は夜にしましょう。」

そんな他愛の無い話が楽しくて飽きずに話し続けていた。




そんな時何か下のほうで大きな音がして俺は飛び上がった。
俺を抱きしめたまま臣さんは溜め息をつく。

「またしてもあの方達でしょうか?
折角の啓太君との時間を邪魔するなんて
・・・なんて無粋な方達でしょう。」

「あの・・俺が見てきます。
臣さんはあまり姿を見られない方がいいと思います。」

「分かりました。
では見えない場所から見守っていますので、気をつけて下さいね。」

俺は頷いてそっと部屋を出る。
一階への吹き抜けの階段に差し掛かると予想に反して業者の人ではなかった。
どう見ても一般の人達だ。
なのに何故か物々しい。
手には竹刀やバットを持っている人もいる。

「あの・・何かご用事ですか?」

俺が声を掛けるとどよめきが起こる。

「おい!お前、あいつの仲間か?」

1人の男がそう怒鳴る。

「あいつって誰ですか?」

とにかく臣さんを見られると誤解の元だ。
姿かたちが違うだけでどうして皆理解しようとしないのだろうか。

「あの化け物だ。
今飛んでいたのを見たと子供達が騒いでいた。
あいつを此処へ出せ。」

しまった。
さっきの見られていたんだ。どうしよう。

「そんな人は知りません。
それに仮に飛んでいたとしたって何か迷惑をかけた訳ではないでしょう。
あなた達にそれを怒る権利があるというのですか?」

「うるせー。
あんなのが住み着いてちゃ、こっちは安心して暮らせね―んだよ。
さっさとあいつを出せ。」

不意に目の前に黒い影が出来る。
一瞬なにか分からず次の瞬間頭に衝撃が走った。
ガツっという音と共に頭に走る衝撃。
投げられた石が頭に当たったのだと思い当たるまで暫くの時間が掛かった。
目の上がぱっくり切れて血が目に入って痛い。
思わずがっくりと膝を折る。
倒れそうになった俺の身体は途中でふわっと持ち上げられた。

「え?・・・」

片目を開けて前を見ると心配そうな紫の瞳。

「大丈夫ですか?」

こんな時なのにこの人の物言いは丁寧だ。
そんな関係ないことをぼんやり考えながら俺は頷く。
すると俺を抱きかかえたまま臣さんは階段下を見下ろす。

「うわぁ・・・でたあ!」

階下はパニック状態だ。

「あなた達はやってはいけない事をしましたね。・・・赦さない!」

突然臣さんの翼が大きく開き突風が巻き起こる。

「ぎゃ~っ!」

俺に石を投げた男が柱に叩きつけられるようにしてダウンする。

「お・・・臣さん!駄目です。やめて下さい!!」

「何故ですか?君に危害を加えたのですよ。
当たり前のことではありませんか。」

今まで見たことも無い様な冷笑。
確かに今この人は笑っている。

「僕は君以外の人間など要らないのです。
この世に君だけが居てくれれば良いのです。」

「駄目です。
それでも・・他人は傷つけちゃ駄目なんです。
とにかく俺は大丈夫ですからやめて下さい。」

このままだと本当に皆死んでしまうかも知れない。
とにかく止めなくちゃ。

「分かりました。」

渋々といった感じででも何とか羽根を納めてくれた臣さんは
俺が止めた事が不満なようだ。

「何故、あんな人達を庇うのですか?」

「庇ったわけじゃありません。
このまま臣さんがあの人達に酷い事をしてしまったら臣さんが傷つくからです。」

彼の腕から抜け出して階下へ降りる。
一人一人見て廻ったけれどどうやら全員気を失っているだけの様だ。
ホッと胸をなでおろす。

でも・・・この人達をどうすればいいのだろう。
此処に臣さんが居ると知られたからには今までの様には居られないだろう。
いつの間にやら後ろに立っていた臣さんに抱きすくめられる。

「啓太君・・・本当に僕は君さえ居てくれれば構わないのです。
何処か違うところへ行きませんか?
この人達の記憶を消す事は簡単に出来ますが
そのうちまた同じ事が起こるでしょう。
僕は君を危険な目にあわせたくないのです。」

そういいながら臣さんは俺の傷口に唇を寄せる。
すると急に痛みが無くなった。

「このように軽い傷なら僕でも癒す事が出来ます。
しかし大きな怪我をされてしまったら僕は君を助ける事が出来無い。
僕はもう大事な人を亡くすことをしたくないのです。
・・・お願いです。僕と共に来て下さい。」

紫の瞳が切なげに細められる。
その時また庭のほうから人の声が聞こえてきた。

「新たな人達の様ですね。
此処に倒れている方達の記憶は消しますので僕と一緒に来て下さい。」

出された手を取ろうとして一瞬躊躇する。
このまま俺この人について行ってしまっていいのだろうか?
確かに俺は彼を愛している。
そして共に居たいと思う。
そして彼を一人にしておけないとも思う。

でもこの手を取ってしまったら多分もう二度と家族や友人とは逢えない。
・・・でも・・それでも俺はこの人と一緒にいたいと思う。
決心をしてその手を取ろうと腕を上げた瞬間
目の前に出されていた手がすっと下ろされる。

「えっ?」

「すみません・・・ウソです。
君は・・・君の道を進んで下さい。
僕の我儘に付き合う必要はありません。
君には家族というものがあるのでしょう。
友達も数多く居るのでしょう?
僕は・・・一人には慣れています。
・・・・でも君を愛しているのは本当です。
一緒に居て欲しいと思いました。
でも僕は化け物です。
いつまでも君と一緒には居られない
最初から分かっていたのです。」

「ま・・・待って下さい.
そりゃあ俺・・ちょっと迷いましたけど一緒に行きます。
俺を貴方の世界に連れて行ってください。
俺だって・・・貴方の事愛しているんです。」

慌てて言葉を紡ぐ。
そうでなければ今すぐにでも目の前のこの人が消えてしまいそうで・・

「ありがとうございます。啓太君。
・・・愛しています。
此処の人達の記憶は消して行きます。
・・・でも・・・・・・君の記憶だけは・・・
消せない!」

臣さんの瞳から涙が溢れる。
駄目だ!俺、さっき約束したばかりなのに・・・
嬉しい涙しか流さないって言ったばかりじゃないか・・

「お願いです。臣さん!俺の話を聞いて。
・・俺も一緒に連れて行って下さい。」

外からの声が近くなってくる。
早く・・・早く・・・俺も連れて行って・・・

何でだろう・・・気が遠くなって来る。
駄目だよ。こんな所で気を失ってる場合じゃないんだ。

「お・・みさ・・ん。あ・・いしてる。俺も・・つれて・・」

黒いもやが頭の中に入り込んでくる。
駄目だ・・置いてかれちゃう・・

「啓太君・・・
君に会えて過ごせた数日は僕にとっての宝です。
本当は連れて行きたい。
でも君には君の生きる道があるのです。
僕はいつでも君を見守っています。
だから・・・強く生きてください。
そして僕を忘れないで・・・愛しています。啓太君。」

まっ・・・て・・・お・・願い・・

もう何も見えない・・何も聞こえない・・・
暗い・・暗い闇に堕ちていく・・・

ちょっと切ない展開になってきました。
これお誕生日祝いになって無いじゃん。
何とか幸せにしてあげたいとは思いますが・・・
明日に続く。