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腕の中の恋人を起こさないように細心の注意を払って頭を捻る。
枕元のデジタル時計が起床を促す5分前だと確認して右手を伸ばしアラームをオフにする。
無粋なデジタル音で彼の眠りを妨げたくない。
いつだって自分の声で起こしてあげたいと考えながら七条は腕の中のぬくもりに頬を寄せた。

だけど後5分。あと5分だけはこの可愛い寝顔を見つめていたい。
その時僅かに身じろぎをして腕の中の恋人が目を覚ます。
人間の本能とは凄い物だ。
ある程度規則正しい生活をしていればだいたい同じ時間に目覚めるものだ。

目の前の恋人が目を覚ますのが嬉しくもあり残念でもあり七条は不思議な気持ちで啓太を見つめる。
焦点が合っていなかった瞳がふいに感情を持つ。
この瞬間が好きだと七条は思う。
見る見るうちに真っ赤になった啓太の額に口付ける。

「し・・・七条さん。おはよう・・・ございます。」

「おはようございます。伊藤君。」

にっこり微笑む七条に少し膨れながら啓太は言う。

「もうっ七条さん。毎回言ってるじゃないですか・・寝顔見てるのやめて貰えませんか?」

「だって・・・こんなに可愛い顔で眠っているのに見なくちゃ勿体無いじゃありませんか。」

更に赤くなる啓太になおも言い募る。

「こんな可愛い伊藤君の寝顔を見られるのは僕だけだと思うと嬉しくて・・・
そんなつまらない独占欲を持ってしまう僕は女々しいですね・・・すみません。」

左眉を下げて困った表情を作ってやる。

「そんな・・・女々しいだなんて・・・俺、そう思ってもらえるの・・嬉しいです。」

期待通りの言葉が返ってくるのにほくそ笑まずにはいられない。

「そうですか・・・そう言って頂けると嬉しいです。
ところで伊藤君。昨夜も言いましたが今日僕は郁の用事で島外へ出ます。
帰りは夕方になると思いますので放課後は郁のお手伝いをお願いしますね。」

「はい。大丈夫です。俺頑張りますから・・・
あの、あと俺の買い物も本当にお願いしてしまって構いませんか?」

少し上目遣いに見上げられ朝から欲情しそうになるのを七条はぐっと堪える。

「ええ。郁の誕生日用に紅茶の葉を見繕ってくれば良いんですよね。任せてください。
それと伊藤君・・・1つお願いがあるのですが・・・」

少しトーンを落とした声で七条は囁く。
この声は七条の甘えモードの声だと気付いた啓太は少し警戒しながら顔を見返す。
七条のこういった甘え事は困ったり恥ずかしかったりすることが多いからだ。

「何ですか?七条さん。」

それでもきっちりと答える啓太に七条は笑みを深くする。

「今日はバレンタインデーですよね。
僕はもちろん伊藤君にチョコレートをプレゼントしようと思っています。
ですので出来たら僕以外の人からチョコレートを受け取らないで頂きたいんですが・・・
心が狭い男だと思うでしょうがモテる恋人を持つ僕としては気が気でないんです。」

少し左眉を下げて困った顔を作る。

「そんな・・・俺なんてモテませんよ。
もう、七条さんそれは痘痕も笑窪って言うんですよ。
俺の事買い被りすぎです。
でも七条さんが心配なら約束します。
他の人からはチョコは受け取りませんから大丈夫ですよ。」

あれだけ周りからの好意を受けながらモテないと言い切る啓太が可愛くて七条は腕の抱擁を強くする。

「ふふっ分かりました。それでは夕方に会計室で会いましょう。
あまりゆっくりしていると君が授業に遅れてしまいますからね。では約束しましたよ。」

「はい。じゃあ俺自分の部屋に戻りますね。気をつけて行って来て下さい。じゃあ夕方に。」








「どうしよう。こう来るとは思わなかった。」

思わず呟いた言葉に和希は不思議そうに言葉を返す。

「こういう場合はどうすればいいんだろう。」

「だから何が?」

購買で買ったパンを食べながら和希は呆然としている啓太の手元を覗き込む。
その手元には手作り弁当。豪華3段重ねであった。
もちろん弁当の製作者は成瀬である。朝、寮の食堂で渡されたのだ。
それまでにも何度か成瀬のお弁当は貰っていたし、
七条もそれに対して異を唱えることも無かったので今日もお弁当ならいいか、
と軽い気持ちで受け取ってしまった。
ところが開けて見るとなんと3段目にはチョコレート。
手作りであろうトリュフが5粒とプレートチョコレート。
プレートには”Sweet Honeyへ愛を込めて”なんて書いてある始末。

「これも貰った内に入っちゃうんだろうな・・どうしよう。」

大好きなチョコレートを貰って沈んでいる啓太を不審に思って和希は問う。

「どうしたんだよ。成瀬さんがお前に夢中な事くらい知ってるだろ。今更そんなに驚く事か?」

「違うんだ・・・今日七条さんと他の人からのチョコは受け取らないって約束したばかりだったんだ。
これも受け取った内に入るよな・・・和希?」

そんなバカな約束があるか。と心の中で和希は憤る。
もちろん自分も啓太用に用意しているからだ。
知り合いのパティシエに作らせた世界でたった一つの啓太用のチョコレートだ。

「啓太が誰からチョコレート貰おうと七条さんに止める権利は無いだろ。
別にチョコ貰うくらい良いんじゃないか?」

「でも・・・約束しちゃったんだ・・・ああ・・どうしよう。」

困っている啓太の顔も可愛くてそれはそれで嬉しいのだが和希の心の中は”あんのくそガキ!”である。

「別に貰っちゃったものは仕方ないだろ。
黙っておくのは無理だろうから正直に言えばいいじゃないか。」

親友の顔で言ってやる。すると啓太はほっとした様に

「そうだよな。正直に話せばいいよな。」

等と頷いている。全く素直で可愛すぎる。
和希が啓太の頭に手を置こうとしたその瞬間に急に後ろから声がかかって2人はちょっと飛び上がった。


「啓太・・・」

「うわっ!・・びっくりした〜・・岩井さんこんにちは。岩井さんもお昼ですか?」

振り返った啓太は其処に岩井の姿を認めキチンと挨拶をする。

「すまない・・・驚かせたようだな・・啓太を探していたんだ。」

「俺・・ですか?何かお手伝いでも?」

岩井と何か約束でもしていたかと啓太は首をひねる。

「いや・・・この前描かせてもらった啓太の絵が出来たから・・・
放課後美術室まで取りに来て貰えないだろうか?」

「えっ?頂いちゃっていいんですか?じゃあ放課後に寄ります。
ありがとうございます。岩井さん。」

「いや・・・構わない・・・じゃあ放課後に・・・」

そう言うと岩井は元来た道を戻っていった。
岩井さん、ちゃんとご飯食べてるのかな?と啓太が考えていると今度は上から声が掛かる。

「啓太。ちょっと上がって来い。・・・ああ遠藤は来なくていいぞ。」

見上げると学生会室の窓から中嶋が呼んでいる。

「何ですか?中嶋さん。啓太は今昼ご飯の最中なんですけど・・・」

自分は来るなと先に牽制された和希は不満気に言葉を返す。

「俺はお前には言っていない。啓太。来るのか?来ないのか?」

陽の光に眼鏡のレンズがキラリと反射して見る者を射すくめる。

「す・・すぐ行きます。和希、ゴメンこの弁当箱俺の机に置いておいてくれるか?」

慌てて弁当箱を片付ける啓太に和希は止める言葉を持たない。

「分かった・・・でも気をつけろよ。啓太。」

「うん。大丈夫だよ。行って来る。」

慌てて駆けていく啓太の背中を見送りながら和希は大きく溜息を吐いた。




「伊藤です。何でしょうか?中嶋さん。」

学生会室のドアをノックして中に入る。当然丹羽の姿は無い。

「啓太、其処に座れ。」

「は・・・はい。」

何だろう俺何か中嶋さんを怒らせるような事したかな?
びくびくしながらそっと指された椅子に腰を下ろす。

「目を閉じて口を開けろ。」

「えっ?」

言われたことがあまりに意外で思わず啓太はぽかんとしてしまった。

「いいから言われた通りにしろ。俺の言う事が聞けないのか?」

「は・・はい・・・」

言われたとおりに目を閉じて・・・恐る恐る口を開ける。
すると唇に押し当てられた柔らかい塊。
甘い口どけとカカオの香りにそれがチョコレートだと分かる。
目を開けた啓太の前に中嶋の満足そうな笑みがあった。

「ふっお前はあの犬にそんな顔でキスを強請るのか?」

その言葉に顔を真っ赤にした啓太は押し込まれたトリュフをなんとか嚥下し話題の転換を図る。

「あの・・なんで中嶋さんがチョコレート・・・」

甘いものが大嫌いな中嶋がチョコを買う訳が無いはずだ。

「ああ・・ネットで本をまとめ買いしたらおまけで付いて来た。しかも1粒だけ。
この季節はそういうのが多くて困る。
だが1粒といえどゴディバだ。丹羽のヤツにくれてやってはチョコが泣く。
あいつは質より量だからな。・・・用はそれだけだ・・・授業が始まるぞ。
それともチョコのお礼でももらえるのか?」

「い・・いいえっ・・・あの・・ご馳走様でした。」

慌てて学生会室を辞しながら啓太はシマッタ。よく考えたらまた貰っちゃったんだ。
しかも中嶋さんに・・・流石に七条さんには言えないや。と考えながら教室に急いだ。





「うわ〜これホントに貰っちゃって良いんですか?岩井さん。」

心底嬉しそうな啓太を見て岩井は薄く微笑む。
儚げではあるが、随分と人間らしく笑うようになってきた。と和希は安堵する。
何度もリストカットを繰り返してきたこのエキセントリックな画家の卵は
啓太が入学してきてからかなり落ち着いたようだ。
自分が学生として学園を見てまわるまでは1個人のプライベートな問題は
理事の所まで何一つ伝わって来ない事すら分かっていなかった。
1人の学生が自殺未遂を繰り返していたことすら自分は把握していなかったのだ。
岩井の複雑な家庭環境は調べさせてようやく分かったばかりだ。

こうやって啓太は色んな人間を癒していくんだな。
自分も癒された1人だと自覚しているからこそこんな面倒な二重生活を楽しんでいられるのだ。
和希は屈託なく笑う啓太の笑顔を見ながら今この瞬間も癒されていると感じる。
岩井の描いた絵は見るもの全てを癒す啓太の笑顔だった。

「良い絵ですね。岩井さん。啓太のこんな表情良く描けましたね。」

確かに啓太は良く笑う。しかしこの笑顔は一段と輝いているように見える。

「ああ・・・この間スケッチを外でしていたら其処から会計室の窓が見えたんだ。
窓際で笑っていた啓太の表情が余りに魅力的だったから・・・勝手にスケッチしてしまった
・・後で啓太に聞いたら描いても良いといってくれたんだ・・・
だからこれは啓太にプレゼントすると約束していた・・・」

そこまで聞いて和希は聞いたことを後悔した。
ああ。あの笑顔は七条に向けた笑顔だったのだ。
親友の自分には向けない唯一の人への笑顔。

まあいい。今は親友の座に甘んじていてやろう。
啓太を学園に呼ぶまでの長い年月を思えばなんて事は無い。
気長に待つさ。
そんな事を考えながら和希はある事を実行する為に啓太を促す。

「ほら早くしないと西園寺さんの手伝いがあるんだろ。」

「あっそうだった。岩井さん。本当にありがとうございました。大事にしますね。」

「いや・・構わない・・・こっちこそ貰ってくれてありがとう・・・」




廊下に出て歩きながら啓太は貰った絵が嬉しいらしくニコニコ笑っている。

「なあ和希。岩井さんって凄いよな。俺自分がこんな表情してるなんて全然知らなかったよ。」

「そうだな。大事にしろよ。岩井さんが有名な画家になったら自慢できるぞ。
・・・ああそうだ啓太。これ俺からプレゼントな。」

なるべく軽い調子で言ってやる。

「なんだよ。プレゼントって?」

「え?何ってチョコだよ。前に啓太が食べたいって言ってたパティシエのだぜ。」

訝しげな啓太の顔を見て苦笑する。

「何だよ。その顔。解ってるって七条さんと約束したんだろ?
でもそれは啓太に思いを寄せてる奴から貰うのがダメって事だろ。
俺達親友だから友チョコだよ。」

「と…友チョコ?」

なんだ友チョコって?訳が解らず啓太は目を白黒させる。

「なんだ啓太知らないのか?
今は友達にあげる友チョコや自分用のマイチョコが流行なんだぞ。
だから受け取ってくれよ。」

気持ちは友チョコなんかである訳は無いのだが
ここで受け取って貰えなかったとしたらわざわざスイスのパティシエにオーダーした意味が無いのだ。

「そ・・そんな・・・」

「遠藤君。伊藤君が困ってますからもう勘弁してあげて下さいませんか?」

後ろから突然声を掛けられ二人共今日2度目の心肺停止状態に陥る。

「し・・・七条さん。お帰りなさい。早かったですね?」

「はい。伊藤君の顔が見たくて飛んで帰ってきてしまいました。
ところで伊藤君?何をそんなに困っていたのですか?」

いえ・・・と口ごもる啓太を見ながら和希は大きな溜息を吐く。
何ってどうせもっと前から聞いていたんだろう。
解っているくせに・・・啓太を困らせているのは一体どっちだ。

「おい。啓太。カバン取って来るんだろ?その絵預かっててやるから取ってこいよ。」

一言位は言ってやらないと気がすまないと和希は啓太をこの場から離す事にした。
和希の意図に気付いたらしい七条は

「では僕もここで待っています。戻ってきたら一緒に会計室に行きましょう。」

と啓太を送り出した。

啓太の足音が完全に遠くなったのを聞き届けてから和希は切り出す。

「随分と亭主関白なんだな。君は。」

理事長モードに切り替え高圧的な態度を取る。

「おや?そうですか?別に受け取るなと強制はしていませんよ。
僕はお願いしただけですから。」

やっぱり聞いていたんじゃないか。
心の中で悪態をつきながらも表情は変えない。

「君のお願いとやらにどれだけ啓太が悩んだのか分かっているのか?
大体啓太の性格からして断れない事位分かってるだろう。」

「もちろん分かってますよ。
ただ僕のお願いを聞こうと努力してくれる伊藤君が可愛いと思うのは当たり前じゃあありませんか。」

よくもぬけぬけと・・・全く喰えない男だ。和希は歯噛みする。

「それに僕の恋人はもてますからね。こんな日に1人にしておくのは心配だったんです。
まあ多分今日は貴方が付いていてくださるとは思っていましたけれどね。」

「ああ。お察しの通り一応くっついて見張っていたがね。約2名程抑え切れない輩がいたよ。」

ふっと溜息を吐く。すると七条は少し眉を下げて困った顔をする。

「別に伊藤君の身に何もなければ構わないんです。
貴方の秘密を共有している時点で僕と貴方は共犯者ですから・・・
これでも感謝してるんですよ。」

「まったく・・・よく言うよ。私が啓太に本当の事を言わないのは別に君の為ではない。
自分に自信が無いからさ。
言ってしまったらもう今まで通りの生活は出来ない。
今いる親友の座すら失ってしまうだろうからな。」

今更俺との事を啓太が思い出したからといって啓太が自分の物になる訳では無い。
それどころか最悪嫌われてしまうかも知れない。

「それでも僕は助かっています。
もし伊藤君が僕以外に心を移すとしたら貴方が一番確率が高そうですから。」

「ふっ随分と自信が無いんだな。そんなに啓太が信じられないのか?」

少し意地悪く言ってやる。これ位の軽い嫌味なら許されるだろう。

「そんな事はありません・・・
ただ・・貴方は僕の知らない伊藤君を知っている。
それだけでも僕にとっては脅威です。
・・・・・ところで遠藤君?」

急に七条が呼び名を変えた事によって和希は啓太が戻ってきた事を知る。

「何ですか?七条さん。」

分かった。とばかりに遠藤モードに切り替え返事をする。

「折角君が用意して下さったのですから頂いておきますよ。」

「え?いいんですか?七条さん。」

と啓太が言ったのと同時に

「別に貴方に用意した訳じゃありませんよ。」

と和希の声が重なった。
思わず2人は顔を見合わせてクスッと笑う。
ひとしきり笑った後和希はもう一度チョコレートを差し出す。

「はい。啓太。
随分と前だけどお前が食べたいって言ってたスイスのレダラッハのチョコレートだ。
食べてくれよ。お前1人でな。」

チラリと七条を見やって意味深な視線を啓太に送る。

「何だよ和希。そんな意地悪な事言わなくたっていいだろ
・・・でもありがとう。
その人って前テレビでやってたミルクチョコがおいしいって話の人だよな。
楽しみだ。サンキュー和希。」

嬉しそうに受け取る啓太を見て今はまあこの関係も悪くは無い。
と和希は自分を納得させる。

「じゃあ俺、今日は手芸部に顔を出す日だから・・また後でな。啓太。」

「うん。ありがとう和希。絵も持っててくれてサンキュ〜な。」

ヒラヒラと手を振って去って行く和希を見送りながら七条は切り出す。

「絵とは・・・岩井さんからのプレゼントですか?」

「はい。さっき貰ったんです。見て下さい。俺ってこんな表情してますか?」

自分以外からのプレゼントが心底嬉しそうな恋人に少々拗ねながらも七条はその絵に目を落とす。

「これは・・・伊藤君がモデルをした時のものですか?」

「いいえ。岩井さんがスケッチしてた時に会計室の窓から見えた俺を描いたって言ってました。
無断で描いた物だからって俺にくれたんです。」

その言葉に七条は安堵する。この表情は自分だけに向けていて欲しい。
我儘な願いだと自覚しているけれど独占欲は強くなる一方だ。

「素敵な絵ですね。
伊藤君は僕に対していつもこんな可愛い笑顔を見せてくれていますよ。
でもこんな可愛い顔は僕に対してだけにしておいて下さいね?」

「また・・・七条さんは・・俺、可愛くなんて無いですよ。」

頬を膨らませて拗ねる恋人の背をそっと押して歩みを促す。

「伊藤君はとても可愛いですよ。
・・・ああ頼まれた紅茶ですが今回はマリアージュフレールのアールグレイにしました。
僕からはティーカップを渡すつもりなので一緒に楽しんで貰いましょう。」

「あっありがとうございました。七条さんカップなのに俺紅茶なんて・・
差がありすぎますよね。」

少し慌てて困った顔をする啓太を七条は愛おしそうに眺める。

「ふふっプレゼントは金額ではありませんよ。
相手を思いやる気持ちです。
それに丁度僕は伊藤君のおかげで株で儲かったばかりですから・・・
伊藤君からのプレゼントだといえるかも知れませんよ。」

「だって・・俺2つの会社のうち1つを選んだだけですよ。」

目をつけたソフトウェア会社の2つを啓太にインスピレーションで選ばせた。
すると選んだ方の会社が現在人気のRPGの新作を出すと発表した。
おかげで株は高騰し、頃合を見計らって売却した七条の手元にはかなりの額が舞い込んだ。
相変わらず恋人の運の強さには驚くばかりだ。

会計室に到着しドアをノックする。

「郁。僕です。只今戻りました。」

ドアを開けると西園寺はパソコンの作業の手を止めて振り返る。

「ご苦労だったな。臣。・・ああ啓太も一緒か。丁度いい、少し休憩する。
臣。お茶を入れてくれ。」

「はい、郁。今日の紅茶は伊藤君から郁にお誕生日のプレゼントだそうです。
楽しみにしていて下さいね。」

少し驚き顔の西園寺に啓太は慌てて告げる。

「あの・・・お誕生日おめでとうございます。
俺・・色々考えたんですけど良く分からなかったので紅茶くらいしか・・・すみません。」

「何を謝る。こんなに嬉しい誕生日は初めてだぞ。
・・・しかしそうか・・・誕生日だったか。
今日は朝からここに篭っていたからな・・・毎年の嫌な思いをしなくて済んだな。」

自分の誕生日を忘れているなんて流石西園寺さんって感じだな。
などと啓太が考えていると七条が新しいカップとティーコゼーをかけたポットを運んできた。

「郁。僕からもプレゼントです。伊藤君の紅茶とセットで楽しんでくださいね。」

「ジノリか・・・良い柄だな。シンプルで私の好みに合っている。」

カップを見て目を細める西園寺を眺めながら啓太はやっぱりこの人は綺麗だと思う。
目の前の恋人とはまた違った端正な顔立ち。何回見ても見惚れてしまう。
それにしてもさっきの誕生日なのに嫌な思いって何だろう。
ぼんやりと思ったその気持ちを読んだかのように

「郁は甘い物が嫌いですからね。
今日が誕生日だというと大体チョコレートを贈られるんですよ。」

と七条が耳打ちする。確かに西園寺さんチョコ貰ったら困るだろうな。

「ですが伊藤君。折角ですから僕達はチョコレートを食べましょうね」

そういって紅茶と共に出されたケーキ。

「シェ・シバタのフォンダンショコラです。
フォークで割った瞬間の香りが絶品なんです。」

「うわぁ。美味しそう。頂きます。」

そっと割ってみると中から濃厚なチョコレートの香りが広がる。

「すっごく美味しいです。わ〜俺、幸せです。」

嬉しそうにケーキを頬張る啓太を2人は幸せそうに見守る。
啓太がケーキを食べ終わるのを見届けた西園寺は
飲み干したカップをテーブルに置き七条に向き直る。

「臣。今日はご苦労だった。
私は寮に戻る。後の整理を頼んだぞ。
プレゼントのお礼だ。啓太とゆっくりしていくが良い。」

「ふふっありがとうございます。郁。
今年のプレゼントは破格のサービスですよ。
甘い物もたまには悪くないでしょう?」

「全くだな。啓太の幸せそうな顔を見るのは私も嬉しい。
だがこの香りには限界だ。
啓太。紅茶美味しかったぞ。ありがとう。」

1人会話に取り残されていた啓太は慌てて

「あっお疲れ様でした。」

と西園寺を見送った。
パタンと閉まったドアを見ながら

「結局俺、今日何にもお手伝い出来ませんでした。
お誕生日だったのに悪い事しちゃったな。」

と呟いている。

「良いんですよ。伊藤君。
郁はイベント事にあまり興味がありませんから
・・・それより伊藤君。口の横にチョコが付いてますよ。」

いいながら七条は唇でチョコレートを拭い取る。
毎回同じ事をされているのに毎回同じ反応をする啓太が愛おしいと七条は思う。

「わわっす・・みません。あっそういえば俺からもチョコのプレゼントがあるんです。
・・・って言っても買いに出る暇が無かったので購買で買ったアポロチョコなんですけどね。」

申し訳なさそうな啓太に七条は笑みを深くする。

「ありがとうございます。伊藤君。
忙しいのに僕の事ちゃんと考えていてくれたのですね。嬉しいです。
・・・ところで伊藤君。今日は遠藤君以外からのチョコレートは貰っていませんよね?」

さっき和希から聞いて知っているにも関わらずそ知らぬ顔で七条は問う。
一瞬ビクッと身体を強張らせた啓太はおずおずと七条の顔を見上げた。

「あの・・・あのす・・・みません。な・・成瀬さんから・・その・・チョコを・・」

「断りきれなかったんですね?分かりました。他には?」

穏やかな口調で促して見る。すると今度は明らかに動揺して目を泳がせる。
瞬時にピンと来た七条だがそこはおくびにも出さない。

「い・・え・・それだけです。・・すみません・・約束してたのに・・・」

おや?庇う気なんですか?あの人を・・・
七条の心の中に黒い嫉妬心が膨れ上がる。
いいでしょう。ここではそういう事にしておきましょう。
ですが全て聞かせていただきますよ。今夜ベッドの中でね。

突如現れた羽根と尻尾に啓太はしまったっと思う。
しかし前言撤回は出来ない。
だから代わりに愛の言葉を囁いた。

「俺、本当に七条さんの事が・・・大好きです。」

こんな言葉を聞かせてもらえるなら小さな嘘も悪くない。

「僕も愛してますよ。伊藤君。」

でもやっぱり今夜は少し意地悪になってしまうかも知れません。
すみません。と心の中で謝りながら七条は啓太を抱き寄せ額に口付けを落とす。

「いつでも僕の事だけを考えていて下さい。僕がいつでも君の事だけを考えているように。」

腕の中で小さく”はい”と返事をする恋人にこの愛しさをどう伝えよう。





ーHappy Valentine's Day−









 FIN

ダラダラと長くなってしまいましたがバカップル万歳!
ぺんぎン草の桃源杏様に捧げます。
理事長vs臣×啓と言うことでしたがちゃんとリク通りになっていますでしょうか?
こんな駄文でよろしければお持ちください。