「伊藤君。お誕生日おめでとうございます。」

急に七条さんに言われて初めて日付が変わっている事に気が付いた。

「去年の僕の誕生日に君は言ってくれましたね。
僕が生まれたこの日が大事だと・・・
僕も同じ気持ちです。
君が17年前のこの日に生まれてきてくれて本当に良かった。
ご両親と君に感謝します。」

「あ・・りがとう・・ございます。」

俺は何だか胸がいっぱいになってしまってそれだけ答えるのが精一杯だった。
自分の誕生日がこれ程嬉しく感じるのもこの世に生まれてきて良かったと感じるのも初めてのことだ。
七条さんがいるから・・・俺をこんなに愛してくれているから・・・
涙が溢れそうな位嬉しいと感じる。

「お誕生日プレゼントですよ。」

七条さんが綺麗なラッピングの箱を差し出す。

「ありがとう・・ございます。開けてもいいですか?」

今にも溢れてきそうな涙を懸命に堪える。
包みを破いて中身を取り出す。
アメリカでは包みを破くのが常識らしい。
今すぐ見たいという気持ちを表すんだそうだ。
そういえばこれを教えてくれたのも七条さんだった。

ビロードの細長いケースをそうっとそうっと開けてみる。
中にはシルバー色のネックレス。
ペンダントトップは小さな羽根のモチーフと四つ葉のクローバー。
クローバーの真ん中には水色の宝石。羽根には紫の宝石が入っている。

「うわっ可愛い。」

思わず声を上げれば羽根の宝石と同じ色の瞳が嬉しそうに細められる。

「以前、伊藤君が下さったストラップがとても嬉しかったので・・
これなら指輪と違って普段していても見つからないでしょうし・・
クローバーは伊藤君の瞳の色を。
羽根には僕の瞳の色を入れてみました。
気に入っていただけましたか?」

「はいっ。とっても嬉しいです。
七条さん。ありがとうございます。俺、大切にしますね。」

嬉しい。心からそう思う。
単純にプレゼントが嬉しいのもあるし、
前回の俺のプレゼントをとても気に入ってくれたのを再確認出来たのも嬉しい。



「あの・・七条さん。これつけてもらえますか?」

持ち上げた金具の留め金にプラチナの刻印を見つけちょっと驚いてしまった。
これ・・シルバーじゃなくてプラチナなんだ。高かったんだろうな・・・
七条さんが器用な手つきで留め金をはめてくれる。

「よく似合いますよ。伊藤君。」

へへっと思わず照れ笑いをする。
だって七条さんが俺を見てとても幸せそうに笑うから・・・
胸が締め付けられそうになる。

「ありがとうございます。七条さん。大好きです。」

「全く・・君って人は・・・僕も愛してますよ。
ところで伊藤君。実は僕も同じ物を買ったんです。
ペアって奴ですね。ですから僕にもつけてもらえませんか?」

そういって七条さんがポケットからネックレスを取り出す。
よく見ると俺のとは大きさが逆みたいだ。
俺のは羽根のほうが少し大きくて七条さんのはクローバーが少し大きい。
受け取って七条さんの首に手を回す。
まるで抱きつくかのようにして留め金をはめようとするけれどなかなかこれが上手くいかない。
暫く悪戦苦闘してようやくはめると額に口付けを落とされる。

「ありがとうございます。伊藤君。愛してます。」

「俺も・・・俺も愛してます。七条さん。」

愛して・・・愛されて・・・口付けて・・・溶け合って・・・
このまま七条さんに溶け込んでしまえたらいいのに・・・
こんなに大好きな人にめぐり合えた幸せ・・・生まれてきて良かった。
これから先いろいろな事が起こるかも知れないけれど俺はこの感動を一生忘れない。
幸せを身体中で噛み締めながら俺は眠りの底に落ちて行った。







朝・・・目が覚めて一番にした事は小指を確かめる事だった。
そしてまだしっかりと結ばれている赤い糸を見てホッと溜息をつく。
このままでは困る事は分かってはいるけれどなんとなく此処にいる間だけでも繋がっていたいと思う自分がいる。

今日は雨が降っているみたいだ。
ラッキーな俺は自分の誕生日に雨が降ったと言う記憶が殆んど無い。
でもどうせ此処から一歩も出ないし雨は結構落ち着く。
俺の行動をじっと見ていた七条さんと朝の挨拶とキスをしてベッドでぐだぐだと時を過ごした。

起きてからもTVやDVDを見たり本を読んだりして1日を過ごした。
その時もずっとお互いどこかに触れていたくって背中をくっつけてもたれ合って本を読んだり・・
七条さんが甘えて膝枕をして下さい。っていうから俺の膝にのった七条さんのサラサラの髪を触って過ごしたりした。

雨が木々を揺らす音が静かに聞こえて俺はこの音も覚えておこうと心に決めた。
結局今日も解く方法は分からずじまいで・・・
明日はもう帰らなくてはいけないのだからどうしようと思う気持ちと
ずっと外れないでいて欲しいと願う気持ちが相対した。
もし取れなかったら切ってしまうのだろうか?
それだけは嫌だ。七条さんも嫌だって言ってくれた。
じゃあどうすればいいのだろう。

隣で眠る七条さんに目を向ける。
最近になってようやく七条さんは俺に寝顔を見せてくれるようになった。
何だか心を許してもらえてる気がしてとても嬉しい。
起こさないようにそっと頬に口付ける。俺の想いが届いたらいいのに・・・
自分で勝手にキスしたくせに何だか凄く恥ずかしくなって俺は慌てて布団に潜り込んだ。






「ん・・・」

明るい日差しが差し込んであたりをキラキラと浮き立たせる。
ああ・・今日は良いお天気なんだな。と考えながら右手を見る。
赤い糸・・まだ繋がってる・・・

「おはようございます。伊藤君。」

「おはようございます・・・七条さん。」

七条さんの腕の中の暖かさが心地よくて彼の胸にギュッと抱きつく。
すると同じ強さで抱き返してくれる。

「良く眠っていましたね。寝顔・・可愛かったですよ。」

「も・・・もう・・また見てたんですか?起こしてくれればいいのに・・」

まあ昨夜俺も見てたからあんまり言えないけれど・・・

「ところで残念ながら僕達のバカンスも終わりです。
そろそろ帰り支度をしないと遅くなってしまいますよ。」

そういわれてはっと気が付いた。
そうだ・・・もう帰らなくっちゃいけないんだ。

こんなにずっと2人っきりでいたから時間の感覚が無くなってしまっていた。

「・・・って七条さん。この糸はどうするんですか?」

「そうですね。僕としてはこのまま君と手を繋いで帰りたいところなのですが・・・仕方ありません・・」

「嫌です!!」

俺は大声で叫んでいた。
自分でもコントロールの効かない感情が渦巻いている。

「嫌です。この糸を切るのだけは嫌です・・
どうしたらいいかなんて分からないけど・・・
でも切るのだけはイヤなんです。」

何て子供っぽい我儘を言っているのだろう。
理性では分かっている。でも感情がついていかない。

「泣かないで・・・伊藤君。」

七条さんの手が優しく涙を拭ってくれる。
その手が優しすぎて余計に涙が溢れてしまう。

「そこで泣かれてしまうと大変心苦しいのですが・・・とりあえずこれは取りましょう。」

そういうと未だ涙でぼやけた俺の目の前で七条さんが小指の赤い糸の結び目を解く。
糸は何の抵抗も見せずにするっと落ちた。

「えっ?」

思わず呟く。
状況が読めずに呆然とする俺の前で七条さんが困ったように左眉を下げた。

「すみません。実は伊藤君の方だけ結び目を瞬間接着剤で固定してあるんです。」

えっ?何?状況が状況だけに俺の脳が理解を拒絶している。

「ごめんなさい。伊藤君。
まさか君がそこまで真剣になってくれるとは思わなかったんです。
でも僕の運命の人だという事は変わりませんよ。」

怒りはじわじわとやってきた。

「七条さん・・・俺の事・・騙してたんですね。」

自分でも驚くほどの低い声が出る。

「伊藤君。怒らないで下さい。
本当にすみませんでした。
連休中はずっと君と一緒にいられると思ったら嬉しくて。
ついもっと一緒に・・・と思ってしまったんです。
嘘をついていたことは謝ります。
本当にすみません。僕を嫌いにならないで下さい。」

必死に言い募る七条さんに大きな溜息をつく。

確かに俺だって一緒にいたいと思った。赤い糸だって嬉しいとすら思った。
だけどこんな騙し方はあんまりじゃないか。

・・・でも・・・結局許してしまう自分がいる事も分かっている。
ダメだな俺・・本当に七条さんにメロメロなんだ。
もう一度大きく溜息をつく。

「七条さん。俺運命の赤い糸・・・本当に嬉しかったんです。
だからもうこんな風に騙すのはやめて下さい。
こんな事しなくても俺ちゃんと七条さんの事好きですよ。」

「・・・FATAL・・・」

突然七条さんが呟く。

「ファタル・・・フランス語で運命や宿命的という意味です。」

そういって俺を強く強く抱き締める。
息も止まりそうな抱擁の中俺はうっとりと目を閉じる。
俺の事ファタルだって思ってくれているんだ。こんな嬉しい事ってない。
だって俺もそう思ってる。誰より七条さんが運命の人だって信じてる。

「伊藤君。愛してます。」

七条さんの震える声を聞きながら答えを返す。

「俺もです。七条さん。」

赤い糸が無くたって俺達は繋がっている。
俺が七条さんの幸せを願う様に七条さんも俺の幸せを願ってくれている。
それを理解させてくれたのは俺の小指にだけ繋がっている赤い糸。

今ならハサミで切る事も恐く無い。
FATAL・・・俺はこの言葉をずっと忘れない。
この人が傍にある限り・・・俺のファタル。
俺は七条さんの背中に回した腕にぎゅうっと力をこめた。









 FIN


間に合った〜!!啓太お誕生日おめでとう!
もう啓太が可愛くて仕方が無い自分がいます。
このお話の元ネタは福良雀様から頂きましたよ。
おかげで誕生日更新に間に合いました。
砂吐きそうな甘さですがまあソコはそれ・・・
ええ・・臣さんですから・・